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「贈ろう」

お久しぶりでございます。
なんともいまさらのバレンタインデー小説をアップさせていただきます。うぉぉ…;

書き始めた物語が予想もつかない方向へ向かって「あれれ?」と思っている内に
3日過ぎ、5日過ぎ…2月中に完成しないかと思いました。こわかった
お付き合いいただける方は続きからどうぞ。
 
 
 
   贈 ろ う
 
 
 新年のあいさつを無事終えて一息ついたそのころに、男にとっては節分をスルーしかねないほどヘビーなイベントがやってくる。ピンクを基調としたディスプレイとともにやってくるそれは目を掠めるたびに胸に嫌な動機を引き起こし、女性ものの下着売り場の前を通るような焦りを掻き立てる。その破壊力は万事屋というキナ臭い仕事を生業としている新八にも同様に降りかかるのであった。
 買い出しに行くことの多い新八は毎日のようにその公害ともいえる独特の雰囲気と甘い匂いの餌食となるわけだが、そんなことも今年は気にしてもいられないというか、それ以上に注意を引く現象に気を取られっぱなしであった。
 
「新八ィ」
 買い物から帰宅した新八を玄関先で待ち構えていたのは、露骨にあきれた表情を作っている神楽だった。
「銀ちゃんがまた唸ってるヨ。まるで便秘中のゴリラアル」
「えぇ~またなの。困ったなぁ」
 ここ最近の悩みというのはほかでもない、上司たる銀時の奇行であった。常から自らをはじめとする変わったもの達に囲まれている銀時だが、その日常は案外代わり映えのしないもので、20代にしてすでにデカダンスの様相を呈していた。判を押したように繰り返され浪費される日々。それでもひとたび外へ足を向けると厄介事とともに引き寄せるのは奇人、超人、人外と多岐にわたるわけだが、人間のメスというやつには縁がないのが憐れみを誘った。その銀時がここにきて遂に壊れたらしい。それは数日前に始まった。
 
「銀ちゃ~ん。何書いてるアルカ?」
 神楽とともに遅い朝食を終え一息ついた銀時は新八の出した熱い緑茶とともにデスクに向かい、筆をとったのだ。万事屋で筆といえばそれはすなわち筆と墨。日本に古くからあるそれそのものだ。普段ならごくまれに応対した電話口でしかその筆は握られることはない。神楽の興味を引くのも当然だし、新八ですら何事かと片付けの手を休めた。しかし銀時は曖昧な返事のあとは黙り込み、一向に埋まらない半紙の前で唸り始めたのだった。それ以来銀時のすることといえば食事と風呂、仕事以外は机に向かい唸るの繰り返しとなった。いい加減にしないとぢになりますよ、と新八がめずらしく率直に銀時の身を案じてみてもちゃかされるわけでもなく、返されるのは生返事ばかりで一向に動こうとしない。
 
 そうしている間に来たバレンタインデー当日。やたらとカップルが目につく気がするその日、腐った気分で買い物をしていた新八は突然前を遮った影にぶつかりそうになった。目を上げるとそこにいるのはマダオこと長谷川泰三その人だった。
「久しぶりぃ、新八君」
「…長谷川さん」
 長谷川の姿をとらえて新八は絶句した。
「なんだってバレンタインコーナーなんかに…」
 そうなのである。いつのもイカツいグラサンはそのままに甘ったるいピンクの前掛けをしている長谷川は見事に視覚の不協和音を奏でていた。
「いやぁ~バイトの子が急病とかでたまたま仕事もらえてね。張り切ってきたんだけどあんまり買ってもらえないんだよね~。なんでだと思う?」
「な、なんででしょうかね?僕にはちょっと分からないなぁ…」
「ね、新八君も一個ぐらい買ってってよ」
「…は?」
「助けると思ってさァ~」
 いやいやいや。新八は全身で拒否した。ただでさえファンシーこの上ない空間で立ち話をしている男二人は周囲の注目を集めていたし、その中でチョコを手に取ろうものならもうこの店には来られないというものだ。
「もう100円でいいからさ。さばいたってとこ見せて店長に気に入られたんだよ」
 そう言われた瞬間、新八の脳裏には万事屋で待つ糖分王が現れた。これから安くなったチョコを目的に買い物についてきたがるだろう。財布を握る僕を言いくるめてなんとしても手に入れようとするチョコもさすがにこの値引き率にはかなうまい。そう思った新八はリボンのかけられた箱を2つ手に取っていた。
 
「新八、ついに女になったアルカ?」
「ついにってなんだよ!普段の僕ってどんなんなんだよ!」
 買い物バックから取り出された赤い包みに驚いた顔をしていた二人はそれぞれソファに陣取りラッピングと格闘を始めた。銀時はというと憎まれ口をたたくわけでもなくじっとつやつや輝くハート型のチョコを見つめていた。
「…銀さん?具合でも悪いんですか?もしかしてまた虫歯でもできたとか?」
「お前、ハート形って…破壊力ハンパねェわ。こんな恐怖を感じるものだったっけ」
「嫌なら僕が食べますけど、目の前で」
「バカかおまえ。一度もらった糖分は未来永劫オレのものに決まってんだろうが。どうせならアレだ。溶かしてもってこい」
「そんなに気に食わないなら食べなくていいですよ」
「じゃなくて、ホットチョコレートとかあんだろ」
「何アルカそれ?ウマいアルカ?作れるアルカ?つぅか作れヨ」
「いやいやいや、それが人にものを頼む態度かってぇの。…まぁ、作れっけど」
「いいの?神楽ちゃん。ホットチョコレートって神楽ちゃんの趣味じゃないっていうか、どちらかというとチャラいものに分類されると思うけど」
「いいアル。私がじきじきに見極めてやるネ」
「なにこれ?なんか作る流れになってね?」
「アンタが言い出したんじゃないですか。それにこんな日くらいリクエスト聞いてあげてもいいと思いますけど」
「…しゃーねェなぁ」
「キャッホーー!!」
 そうして万事屋に広がった甘い香り。通常よりもだいぶ多い牛乳で嵩がふやされたであろうそれは3つの湯飲みに移され、なぜかプレゼントしたはずの僕の前にも差し出された。
「…んだよ。おめぇも飲みたいんだろ?」
 微かに寄った眉間のしわと、甘ったるい匂いのする液体は全然かみ合ってなくて僕は思わず笑ってしまった。空になったお盆で軽くはたかれた頭の感覚さえ鈍く甘く体に広がるようで、毎年こんなバレンタインなら大歓迎だと思った。銀さんも妙な雰囲気に耐え切れなくなったのか僕の隣で湯飲みに集中するフリをし始めた。それでも何度となくチラチラと視線がぶつかるたびに僕はどうしても笑いが堪えきれなくて肩を震わすことになった。
(心臓に悪い…)
 笑いを堪えすぎたために涙目になる。それを神楽ちゃんは不審に思ったようだけど赤くなった耳から彼女もまた照れていることが知れた。ほっこりと暖かな時間はツンもデレも相殺してうまいこと包み隠し、万事屋に束の間の静寂を作り出していた。
 
 
 
「ったく、あのマダオは!今月もやばいっていってんのに!」
 
 数日後、買い物から帰った新八は銀時がいそいそと出かけたことを聞いて青筋を浮かべていた。たまに銀時は夕飯時にいなくなってしまう。まるで堪えきれなかったというように毎月繰り返されるそれ。
(まぁ、僕らと会う前は好き勝手してたみたいだし、落ち着いてうちにいろって言うのが無理な話なのか…)
 だから僕があの人のいない部屋に心を痛めるのはお門違いに違いないのだ。
 鼻息も荒く進めていた歩を緩め、雑多なにおいのする喧騒の中で一度深呼吸したその時だった。視界の隅に見慣れた銀髪が映った。
(わかりやすい人…)
 銀時がいたのはなじみの屋台。周囲に広がるいい香りに偽りなく、驚くほどおいしいおでんを出してくれるのを新八は知っていた。去年の冬に銀時と神楽と一緒に入ったことを懐かしく思いながら、ひしゃげた心をなだめながら新八は待ちわびた背中に近寄った。
 
「いや~銀さん、それにしてもこの前はうまくいったよねぇ」
「あン?なにがよ?」
「バレンタインの事だよ。俺に仕事は入るし、銀さんは新八君から穏便にチョコもらえてだろう?さすが銀さん!よっ!日本一!」
「あ~、あんなの銀さんにとっちゃ朝飯前だってェの。うちの子はホント買い物上手だから。しかも単純ってェか、分かり易すぎっつぅか。ま、楽勝楽勝」
「…ぎ、銀さん銀さんッ!!」
「あ?」
 出来上がっている銀さんは肩を引くと簡単にこちらを向いた。へらへらとゆるみきった顔が驚愕に固まる。
「し、新ちゃん…ッ…いつから…?」
「銀さん。あんたはクソ虫以下だよ」
 夜の風は冷たかった。雪にぬかるむ通りは沼のようで。
 踵を返して走り出した僕の手を掠めた銀さんの指は熱かった。
 その熱さは道場に帰り着いても消えてくれなくて、布団の中に潜り込んでも僕をしつこく苛み続けた。
 
 
 翌朝は憎らしい程の快晴。僕は一晩中泣いたために腫れぼったくなってしまった瞼の下から辛うじて光を拾う。氷で目を冷やしつつ朝食の支度をしている僕に気遣わしげな視線を送るも、姉上は深く追及しないでくれたので嬉しかった。ただ無言で薙刀を研ぎだしたので、あの刃が血を吸う前に何とかしなければと思った。
 もとより長く引きずるべき問題でもないのだと、自分に言い聞かせる。それに失敗して目をはらしているわけだが、銀さんにデリカシーを求めるのは魚に鰓呼吸を止めろというようなものだから。傍若無人。奇想天外。そんな人を愛した自分はこんな理不尽も軽々とやりすごして見せなければならない。
 銀さんは弁明の機会をうかがっているようで、万事屋についた僕は驚いた。朝食の用意に始まり、整頓された机に塵ひとつない廊下。そもそも銀時が自分で起きているということ自体奇跡に近いのだ。
 
「銀さん」
 
 朝からしょげ返っている背中に声をかけたのは太陽が西に傾き始めたころだった。1日ぶりに重なる視線。デスクの上にジャンプを置くと銀さんは僕の手を取った。そのまま引き寄せて腰に腕を回すと僕の腹に顔をうずめた。途端に静まったかに見えた感情が堰を切って溢れ出す。
「…銀さん。僕らは付き合ってるんじゃないんですか?」
「つきあってる」
「僕が男だから遠慮したんですか?」
「違う……いや、それもある」
「じゃぁなんであんな回りくどいことしてくれたんですか!?それで僕がどう思うか考えもしなかったんですか?」
 上がってしまった息が憎らしい。いつもなら迷わず抱き込む銀の頭が今はどうにも腹立たしいのだ。ただこの人と暖かい時間を共有できたらそれでいい。与える準備はいつだってしてあるのに。見くびられていたらしい事実は僕を想像以上に打ちのめしていた。
「…お前がどうこうじゃねぇんだ。なんつぅか…何もらえば満足できるかわかんなかった、みたいな?」
 黙って僕を拘束していた腕に力が入った。
「…銀さん?」
「くれるってェならもらう。欲しいってェならやりてぇんだ。でも、それで自分が満足できるか分からなかったんだよ。強請るなんてかっこわりぃマネできねぇし…だからどうしようか考えて…」
「…それで、わざわざシナリオまで書いて、長谷川さん使って…」
「そう。そこまでしたらそれで満足しないわけにはいかねェし、お前は間違いなくくれるだろうし?」
 新八はため息をつきたいのをぐっと堪えた。その代わりに額を探り出しキスを一つ落とす。僕の機嫌が立て直されたことを察したらしい銀さんは少し照れくさそうに目を細めた。物足りなさそうな顔をしているがここは少し待ってただこう。
 
「…それで、満足できましたか?」
 正面から覗いた深紅の瞳は逸らされることはない。
「…おかげさまで」
 僕はこみ上げる笑いごと愛する人を抱きしめた。
 
 
 与えることにも、与えられることにも慣れていない僕らはいつだって探してる。
 過不足なく平凡な、この特大の愛を証明する方法を。
 悩みに悩んだ結果、今回は見当違いの答えにたどり着いた銀時に気づかれないように、新八はそっと涙をぬぐった。
 
2011/02/26

 
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なんでこんなに長くなったし自分??;
フツーにイチャラブして甘々な空気をまき散らすつもりだったんですが、
どうにも私は新ちゃんを泣かせる傾向があるようです。
嬉し泣きだからいい、ですか、ね…?

ちなみに補足させていただきますと、これは付き合ってから迎える初めてのV.D。
まだお互いに感情の表現にとまどってまごまごしている時期、です。
書いてる私も大変まごまごさせられました。

ここまで読んでいただいてありがとうございました!精進します!
 

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