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「手折る」

春の陽気にあてられて書いたものを、

ためしにup。
 
 
****************************
 
 爛れた町かぶきちょうにも、春は訪れる。
 河川敷に眼をやれば、黄色や白の小さな花が、去年と同じような場所に群生しているのが見える。
 
(あー、去年のお花がガンバって子作りしたのねぇ)
 
 なんて、口に出していえば情緒のかけらもないと、高速で突っ込まれそうなことを考えた。
 ウチの助手は案外、趣というものを大事にしたりする。
 案の定、目聡くソレを認めたヤツは、うれしそうな声を上げた。
 
「うわぁー。もうあんなに花が咲いてるよ、神楽ちゃん」
 
 酢昆布の口をあけるのに躍起になっていたため、少し遅れて歩く同僚に同意を求める。
(え、俺は?はなから問題外なのかい、新八君?)
 微妙に感じたショックはしかし、表には出さない。
(確かにそうか、新八君)
 日頃の行いがものをいった。
 
「ちょっと寄って行きましょうよ、定春も走りたそうだし。ね、銀さん、ちょっとだけ」
「あぁ、いいんでないの。俺も歩きどおしで疲れたし」
 
 了承を得るが早いか、二人と一匹は大して広くもないそこに、うれしそうに駆け下りていく。
 二人がまとめて買い物袋を置いた場所に腰を下ろして、間近に緑を感じた。
 ほのかな湿り気を帯びた草原の感触は久しぶりで、春なんだなぁと、実感した。とたんに、気忙しくなった。
 これからどんどん春めいて、筑紫がスンゴイことになって、ぐんぐん気温が上がって、そんでもって夏が来る。
 寒さもそうだが熱さも同じくらい嫌いな銀時としては、まとわりつく熱気を考えるだけで憂鬱だ。
 
「新八ィ―、こンだけ草生えてんだから、喰えるのもあるアルか?」
 不意に聞こえた神楽の問いかけに、銀時はさらに鬱々とした。
(神楽、悲しいことを大きな声で言わないで!!)
 思わずヨヨヨ、な気分で俯くと、尋ねられた新八が明るく切り返す。
 
「うーん、腹の足しにはならないけど、この草だったら指輪が作れるよ」
「マジでか!?かぶきちょうの女王様は、ただいま指輪をごそもうちゅうヨ!」
「ごそもう、じゃなくて御所望、でしょ。お花、大きい方がいいよ、ね、っと」
 
そういって新八は、黄色い花の群れからひときわ大きく輝く黄色を摘んで、顔を輝かせる少女の前で器用に指輪をこしらえて見せた。
はい、どうぞ、女王様、といって手渡そうとする手は一旦、グイッと押し戻された。
「はい、どうぞ、じゃないアル。職人風情が。ひざまずいて、こう、うやうやしくするヨロシ。」
 いつの間にか城下の職人になっていたらしい少年は、そう言われると驚いた顔の後、苦笑交じりで大人しく跪いて見せた。
 
「失礼しました、女王様。どうぞ、お納めください」
 
 小さな右手が、それより一回り大きい、しかし、まだ少年らしさを残した手で包み込まれる。
 そっと、中指に通された大振りの指輪のサイズは、神楽の、もとい女王様の指にジャストフィットだった。
 おぉ――、と素直に感嘆の声を上げた女王は次に、フム、と頷いて、苦しゅうないぞ、と職人をねぎらった。
 
 その一部始終を、銀時は何やってんだと半眼で見ていた。
(指輪かー、俺でも贈ったことねぇのにな、新八のヤツ。大人しく膝なんかついちまって。
 なんか、ミョーに手馴れてたな、俺なんかこっぱずかしくて出来る気がしねぇ、―――)
 と、思ったところで自分が新八の前に跪く光景が脳裏に浮かんだ。
(――・・・ッぐおぉぉおおぉ――――ッッ!!ありえねぇっ!!マジムリ!ムリムリムリムリ、絶対ムリです!)
 一人赤面するのだった。
 
「銀さん?何一人で捩れてんですか?恥ずかしい」
 大丈夫か、ついに糖尿にやられたかと、言外の声がした気がした。
いやいや、恥ずかしいって、そもそもお前が恥ずかしいことしてたせいですからね、コレ。
「なんでもねぇ。・・・ソレより新ちゃん、お花の指輪作れるなんて、あいかわらず乙女ね」
 テレを隠した反撃。我ながら女々しい。アレ、乙女なのってむしろ俺?
「ああ、アレはよく姉上と作ってた、・・・というか、作らされたというか・・・」
 はぁ、なるほど、納得。
「でも、女の子って考えること同じなんですね」
「女はいくつになっても、指輪やらネックレスやら五月蝿いもんよ、新八君」
「いや、それもあるんですけど。姉上も僕に跪いてほしいっていってたんですよ。すっかり忘れてましたけど。
姉上はお姫様で、僕は直参。身分違いで、かなわぬ恋って設定でした」
「・・・へぇ、そりゃぁまた、妙にリアルだな。元祖リアルおままごとじゃねェか」
「そうですねぇ。でも僕はかなわぬ恋に打ち勝つつもりで、両手が埋まる分だけ指輪を献上してましたよ。
 せっかく、姉上、お姫様なんだから、よくある童話みたいにハッピーエンドにしたかったんだと思います」
「はぁ、ほんと、姉上幸せ者ね」
「・・・どうせ、くだらないとか思ってんでしょ。いいですよ、姉上と僕だけの楽しい思い出ですから」
 新八は銀時に顔を顰めて見せた。
 しかしソレは照れ隠しだと、銀時にはわかっていた。
 
(お花を使っておままごとをするような、そんな小さな頃から、お妙はかなわぬ恋をしていたんだな。
 まるで今の状況を見越したように。 いや、もしかしたら、そのときにはもう、こうなることを確信してたのか・・・)
 いずれ誰かに奪われるであろう大事な存在を、その存在から与えられる敬愛を、誰よりも近い場所で感じながら。
(切ないねぇ)
 他人事のように思ってみてもやはり、悲しいかな、己の気苦労の種でもあるわけで。
 いずれ来る助手たちとの別れは、小さくはないだろう痛みを銀時の身に与えることは必死だ。
 嫌というほど知ってしまっている決別の痛みは、近しい人なら、まして、愛するものならいかばかりか。
 こちらの身が滅びかねないと思ったのは、一度や二度ではない。
(いかんねこりゃ)
 風呂場でも、酒場でもない、至ってうららかな草原で感傷的になれるなんて、己の精神構造に辟易する。
 まったく、こいつらに会ってから、弱体化の一途をたどっている。正直、疲れたよ、銀さん。
 
 会話を早々に切り上げた新八は、飽きもせずに再び草むらにしゃがみこみ、花に見入っている。
「神楽ちゃーん、こっちに青い花があるよー」
「こっちには毒々しい色したまずそうな草があるヨ。今夜はこれイってみるアルか?」
「いやいや、遠慮しとくよ」
「なんだヨォ。こういうヤバそうなもんほど食べてみればウマいって銀ちゃん言ってたネ」
「・・・うん。でも野菜は十分仕入れたからホント、大丈夫だよ」
 
 新八はそう返しながら、先ほど見つけた青い花に向き直る。
 ともすると見落としそうなソレは、控えめだかかわいらしい花をいくつもつけていた。
 新八は優しい所作でその花に手を伸ばす。
 
『ブチッ』
 
 小さな音とともに花弁が二、三散ったのが見えた。
 
 
 銀時は切にあの花になりたいと願う。
 お前に笑顔を与えられるなら、その手で摘まれたってかまわない。
 お前の笑顔の傍らで、命を散らせられたのなら、俺はこの生に最大の賛辞をやろう。
 
 激しい熱を伴った願望は、乾いた心の最奥を撫でて、
 ぐずぐずと膿んだ傷を、またひとつ残していった。
 
 
春の陽気に当てられて書いてみました。
春は日差しこそ柔らかいが、荒々しい風がなんともいえない不安感をあおる気がします。
 
素直に幸せに浸れない。久々に物悲しい己を自覚した銀時でした。
 
2009/04/06


季節とか丸無視で失礼しました。

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