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「笑える話」

こんにちは。酷く久々にアップいたします。

短いですが、両片思いからの一歩のお話です。
久々過ぎてどうにもぎこちないですが、よろしければ続きからどうぞ!




   笑える話

 3つ数える間に。
 彼の薄い唇はそう吐ききると目の前で、ぴた、と閉じた。
 だから僕には何を、とか、なんで、とか問いかける選択肢が用意されていないことを理解した。

「いーち」
 律儀に数えて見せてくれるらしい。本人さえ、今の状況がまぬけであると分かっていると、その眉間のしわが教えてくれる。
 可笑しいなぁ。

「にーい」
 口の端はいっそ笑顔の高さなのに、目が諌められた。いよいよ異様さに拍車がかかる。
 僕の口の端も上がった。

「さ――……」
 …さあ、肚を決めなければいけない。
 この僕も、めずらしく洗い物を手伝いなんてしたために普段なら触れないように細心の注意と体捌きを見せる相手が運悪くも取り落としたコップを追いかけて体勢を崩したのに伸ばした腕で思いきりその体を抱き寄せてしまったこの人も。

「ああぁぁぁ……」
 ねばるなぁ。息の吐き過ぎで顔が真っ赤になってきてる。
 仕舞いにはふるふる震えだした頭を、堪りかねて抱き込む。

「んッ…」
「……」
「…悪ィ、新八。悪ふざけが過ぎた。…ほれ、洗いもんの続きすんぞ。」
 くいっと袂が引かれる。ほわほわの白髪の向こうでは、確かに未だ泡にまみれた食器が見える。三人分の器。大中小、大中小。一つとして揃いではない、賑やかな色味のそれらは、それでも僕らの日常を形作ってきた。
 料理に込めても、視線に込めても、全然間に合わないくらいに絶え間なくこの身を覆う愛情は、いつしか相手の心に侵入を果たした。果たしたのちは、御覧の通りだ、笑い事だ。
 やましくないと互いを騙してきたが、それももう今日までにする。ねぇ。

「…銀さん…」

 存外に非難がましくなって申し訳ないが、返答次第では非難させてもらわなければならないだろう。事ここまで至っては、鼻声でみっともなく縋りつくなんてマネをさせて。
 感情の高ぶりに合わせてヒクヒク痙攣する胸に向かってしばし唸り声をあげて、躊躇いがちに腰に巻きつく銀さんの腕の重さは、笑いの痙攣をも誘発する。
 意志を持って囲われてしまえば、その雰囲気の濃さに圧倒された。愛しさに目が眩んで、身の置き場が無い様にさえ思われた。
 それでも互いを離せない。その気配に安堵を覚え、体温欲しさに痺れる指先を持て余し苦しんできたのだから。
 困惑を逃がす様に頭の拘束を強めたら、胸郭を圧迫する力も増した。その苦しさにやはり、笑いがこぼれた。

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