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「オーロラビジョン ~それから それから~」

1時間の遅刻で失礼します。
4月中と明言して自分を鼓舞しておきながら、随分な難産でした。

”つづき”より、「オーロラビジョン」のその後編です。
新八サイドで掻き乱された心情を赤裸々に。
結構熱いです、この新ちゃん。




オーロラビジョン  ~それから それから~
 
 
 
 今日は驚く事がいっぱいあって、なんやかんやで僕は今、万事屋で昼ごはんの準備をしている。
 
「なんやかんやじゃないだろが。お、タマネギのみそ汁いいねェ~」
「ちょっ、人の思考読まないでください!この変態!」
 
 ささくれ立った気持ちを抱え上司を睨むと、当の銀さんはどこ吹く風で。割烹着の裾をくいくい引っ張りながら遊んでいる。
 あぁ、今日ほど信用という言葉に真っ向からへそを曲げたくなった日はない。
 熱くなる目頭から意識をそらせ、目の前のみそ汁に集中する。
(どうせ僕は貧乏くじを引く運命なんだ)
 
 あれほど心振るわせた事件の最後はあまりに配慮にかけていたとしか言いようがなかった。
 
 
 
「なぁ新八ィ・・・」
「・・・なんですか」
「もうさ、このまま続きしっちゃったりなんかしたりしない?」
「続き?ってなんの・・・・・・バっ・・・!バカじゃないですかアンタ!?」
 
 すっかり嗚咽も止んで、お互いの赤くなった目元を見るのが恥ずかしくてなんとなく抱かれるままに任せていたらこのアホの天パは!!
 
「バカじゃありません~。新ちゃんが大好きな、頭の冴えたカッコいい銀さんですぅ~」
「誰もそこまでいってねェよ!つぅか、自分で言ってて寂しくないんですか」
「だって新ちゃん」
「だってじゃないです。あっ!?ちょ・・・」
 
 大好きだから、乱暴でハチャメチャでも思いを伝えてくれてうれしかった。
 でもだからといって、これ以上の暴挙を受け止める余裕が今の自分にはないのも事実だ。
 戒めを強くして再び皮膚のすぐ表面を走り始めた大きな手のひらに比喩じゃなく戦く。
 嬉しそうに鼻歌を聞かせる当の手の持ち主は先程までの雰囲気だとか、ムードだとか、そんなものはすべて脱ぎ去ってしまって完全にいつもどおりだ。
 それに呆れると同時に、僕の中で危機感が強くなる。
 
(太陽が随分高く見えるけど、今何時なんだ?)
 
 お腹を空かせた同僚と綺麗に微笑む最愛の姉の顔が思い浮かんだところで、自分があまりに重大なことを見落としていることに気付き戦慄した。
 
「ちょっと銀さん!アンタそうやって現実逃避してる場合じゃないんじゃないですか!?神楽ちゃんは!?姉上には何て言ってあるんです?」
 
 ヒクリと強張った銀さんは顔を上げることはせず、僕の腰骨を熱心に撫でる。
 まるでそうすることに夢中で、今の僕の言葉を聞き逃したとでもいうように。
 この男は時々眩暈がするほど子供っぽい。
 
「帰りますよ!」
「・・・へぇい」
 
 溜息をこらえて促してやると、ようやく体が解放された。
 のそりと身体をどかした銀さんは本当に名残惜しそうな顔だった。・・・もうッ!!!
 
 
 
 銀さんの胡散臭い隠れ家を後にし、巧い言い訳を考えるのを銀さんに一任して(だって今回の原因は全て銀さんだ)、促されるまま僕が連れて来られたのはスナックお登勢だった。
 策を明かされないまま万事屋を目の前にして内心縮み上がっていたが、挨拶もそこそこに銀さんが放った一言で僕の心臓は縮んだまま飛び上がることになる。
 
「ババァ、俺達付き合うことになったから」
「・・・へぇ、そうかい」
「へ、・・・な・・・ぎ、銀さん?」
 
 
(なぁぁあぁぁああぁぁぁぁ!!!??)
 僕は余りの居た堪れなさに心の限り絶叫した。
 
 
(ななな、何考えてんだこの人!?)
 
 お登勢さんにソレを報告するなんて、なんかまるでお母さんに好きな人を報告するような、いやソレが実際どんなものか分からないけども、少なくとも姉上に報告するよりはそれらしくないですか???
 
 軽く眩暈がするほど恐慌状態に陥った僕をほっといて、銀さんの話は続く。
 
 
「---で、ちっとマズい事になってから昨日から新八はここで寝てたってことにしといてくんねェか」
 
(---ん?それって・・・)
 
「こいつは昨日この店手伝って、そのまま眠っちまって、んでいままで誰も気付かなかったっつぅことでヨロシク」
「んなッ!??」
「はん。そんなんじゃ先が思いやられるねェ。新八、あんま無理すんじゃないよ。なにもかにもこんな阿呆に付き合ってやるこたぁないからね」
「うっせぇババァ。ほっとけ。つぅワケで新八、---」
「ふッざけんなこのクサれ天パァァァ-------ッ!!!」
 
 この人は、デリカシーというものが全くない。
 それはこの世の摂理だろうが、それでも、だ。
 こんな関係になっても微塵も改善されないということを早々に突きつけられる形となって悔しいやら、憎らしいやら。あの心震えた時間は幻だったのかとさえ思った。
 滲んだ涙は相当苦かった。
 
 
 
 そして信じられないことにこの理不尽極まりないでっち上げの真相は誰に疑われることもなくすんなり受け入れられ、心配させた罰として姉上と神楽ちゃんに詰られ、捻られ、床に沈められ、ようやっと開放された頃には心ばかりか身体までボロボロになっていた。
 
 加えて小腹が減ったという神楽ちゃんの主張を聞く羽目になり、疲れた身体に鞭打って大量の握り飯とみそ汁(具は大量とはいえない)を作っているのだ。
 おそらくこれも罰の一環なのだろうなと、タマネギがいい具合になったところで気付く。
 
「よし、出来た」
 
 最後に味見をしてコンロの火を止める。
 途端にまとわり着いてくるモジャモジャに食器を運ばせ、その隙に流しを片付ける。
 と、炊き立てのご飯の香りに痺れを切らしたのか居間から神楽ちゃんの呼ぶ声がした。
 
「新八ィ~、早くしないとお腹と背中くっつけてやんぞコラ~」
「神楽ちゃん、女の子がコラーなんていっちゃダメだよ。もう出来たから運ぶの手伝ってね」
「・・・仕方ないアルナァ」
 
 しぶしぶ台所に現れた神楽ちゃんは軽々とおにぎりの小山が乗った大皿を持ち上げ居間へと運ぶ。その眼差しは真剣そのものだ。
 ことウチの従業員たちは食に対して貪欲で命をかけているといってもいい情熱を傾けている。
 単純にもっと稼げばいいと言う点に関しては社長自ら目を逸らし、赤貧のうちに活路を見出す術を日々磨く。
 そんな二人が微笑ましくもあり、悲しくもあり。
 手の内にある安堵からカワイイと思ったりもし。まぁとにかく皆この状況を各々楽しんでいるみたいだからいいんじゃないかとも思うのだ。
 実家からもって来た大皿や大鍋が生活に馴染んで生き生きと使われているのを見ると単純に嬉しいし。
 
 
 そういう感情が行き過ぎてたまにやりすぎたりもする。たとえば今がそうだ。
 
「・・・なにするアルか」
 
 両手がふさがっているのをいいことに、綺麗にセットされた彼女の頭を撫でてみた。
 案の定、眉間に皺を寄せ気持ち悪いものを蔑む様な視線を寄越す。
 年々鋭さを増すガンの付け方も、僕にとっては微笑ましい限りで。
 
「ナニ笑ってるアルカ」
「・・・なんでもないよ」
「・・・おーいオメェら。早ェとこ食いてェんだけど」
「はーい。行こう神楽ちゃん」
「なんだヨメガネ、キモいアル。思春期は一人でやれヨ」
「ははは・・・」
 
 
 二つの湯気を引き連れて居間に入ればぶすくれた銀さんと目が合った。
 前までならこんなあからさまな感情は見せてくれなかった。感情に正直な態度を見せるときまってばつが悪そうにしていたっけ。それも神楽ちゃんが一緒にいるようになって徐々に改善されてきた。
 根っから本能に沿って行動する神楽ちゃんは荒々しくはあるけど、銀さんにとってはいい起爆剤だったようで。
 この天邪鬼の大嘘つきに素の感情を突きつけたのだ。
 そうして出来上がった感情は銀さんを引きずって、今では神楽ちゃんが二人いるようなありさまだ。
 でも、少しの仲間はずれも許せないような、相手を掌握して自分で染め上げてしまいたいような苦くて甘い衝動に苛まれるのはなにも銀さんや神楽ちゃんだけではない。
 
 手に入れてはいけない戒めの中で見つめ続けた背中をそれ無しで見つめるとき、自分はどうなってしまうのか。
 僕はそれが恐かった。
 
 
 
「・・・あぁ・・・」
「んあ?なんだ新八」
「いえ、・・・なんでも・・・」
「新八今日ヘンアル。メガネにヒビでも入ってるアルカ?」
「あぁ本体にな」
「割れてないです。ご心配なく」
 
 
 
 自身の心から贖罪をなくしたとき、
 
 
 きっとそこには、
 
 
 愛情しか残ってないんだろうな。
 
 
 
 そう思うと酷く安心できて。
 目の前の二人にいつ言ってやろうかと算段を立てた。

できることなら今新八は 声を大にして言いたかった。

「アンタらがだいすきだ!!!」

 

2010/04/30
恐いもの知らずが許されるお年頃ですから、正直者の新八君はある意味最強かもしれません。
周りのツンデレさん達は覚悟しておいた方がいいみたいです。
 

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新八の強さと愛情にノックアウトです

  • kentan
  • 2010/05/01(Sat)19:06:24
  • 編集
新ちゃんの器の大きさにただただ感心しました。
あんなことをされても、銀時を受け止め、更に深い家族愛にも似た愛情でもって二人を包む新八に惚れました。

良妻賢母なあんちくしょう

  • 三國
  • 2010/05/01(Sat)23:18:24
  • 編集
豪快なツンデレ二人を包み込んで、尚且つ万事屋を切り盛りできるのは新八であればこそですよね。
自分で書いていても新八はいい奥さんだなぁ、と感心してしまいました。
こんなお母さんになりたいものです(笑)

あっ宿題を提出されたんですね?

  • ウノーサノー
  • 2010/05/02(Sun)04:59:52
  • 編集
チッ!
うまく誤魔化しやがったな坂田のヤツ
と、ちょっと魔王とグラさんにフルボコにされない坂田を残念に(←不満ではなく残念なのは坂田に厳しい魔王&グラさんが好きだからw)思いつつも、お登勢さんという信用ある人を味方につける悪知恵に感心しちゃいました。
新八被害者なのにお妙さんと神楽ちゃんに怒られて結果的に坂田をかばってあげる大人な優しさと甘やかしっぷりが偉大です。
ツンデレな神楽ちゃんは、新八がいなくて凄く心配してたから、殊更に可愛いかったですvvv
オッサンがツンデレだとイラッときますけどwww
しかし、オッサンのツンデレすら可愛いと思えるお母さんな新八が大好きなので複雑な愛憎模様です。
宿題は僭越ながら花丸でしたよ♪

及第点ですかvvv

  • 三國
  • 2010/05/02(Sun)11:48:17
  • 編集
満足していただけたようで安心しましたぁ。
事の真相を魔王様にお話しすれば、付き合って早々に銀さんが消されかねないと思い涙を飲んで新八に被害を被ってもらいました。
くそぅ坂田め・・・ッ
その内天罰が下ると思いますvv

これからもリクエストなどありましたらお気軽に教えてください。シッポ振って飛びつくと思います。
あ、ちなみに同じ内容のコメントが二つ投稿されていましたので、一つ削除させていただきました。事後報告で失礼します。

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