「天引きのあとさき」
ふたたび、春先に書いたものです。
まあ、今も春みたいに空が高いからいいとしよう。そうしよう。
まあ、今も春みたいに空が高いからいいとしよう。そうしよう。
天引きのあとさき
晴れ渡る空の下。
志村新八は今日も歌舞伎町の混沌とした日常を前に頭を抱えていた。
「てめェ。自分が何したか分かってんだろうなァ、ゴリラ」
「すまん、悪かった。このとおりだ万事屋」
「いいや、謝って許されるもんじゃないよ、これァ。ホント自分が何したか一遍言ってみ?」
「・・・だから、新八君を無理やり押し倒そうとして悪かった、といっている」
「・・・もっぺんだ」
「だから、嫌がる新八君を無理やり押し倒そうとして悪かったと、」
「もっぺん」
「だから、その、嫌がる新八君を往来がある中、公道で無理やり押し倒そうと・・・」
「いいかげんにしろよお前らァァァ―――――――!!!」
新八は力の限りシャウトした。
薄暗い路地に引っ立てたゴリラを湿った地面に正座させたところまでは良かった。
尋問をアホな上司に任せたのが間違いだった。
(この人、絶対楽しんでる・・・っ)
ニヤニヤ笑いながら「あ、ごめん、新八君」なんていってくる銀時には当然、反省の色は見られない。
信じられない人でなしだ。
「・・・それで、あの、・・・なんであんな事したんですかね?近藤さん」
打って変わって優しい尋問になったわけだが、依然として俯いた近藤は居心地悪そうにモジモジしている。
「オイコラ、ゴリラ。聞いてっかコラ?ついに言葉が分からなくなるまで身も心もゴリラになっちまったか?あぁン?」
「いやいやいや。そんなんじゃないから。・・・その、本当に悪いと思っている新八君。このとおりだ」
そういうと近藤はどす黒く濁った地面に土下座して見せた。
「や、やめてください近藤さん!服が汚れちゃいますよ?」
仮にも真選組局長ともあろう男がここまで打ちひしがれ、情けない醜態をさらしているのは尋常ではない。
まぁ、普段も大体情けなくはあるが、というか、情けない記憶しかない気もするが、万事屋にされるがままという事態はさすがにおかしい。
「あの、やっぱり姉上がらみ、ですか?・・・」
新八がある程度の確信を持って言うとゴリラはやっと顔を上げた。
(やっぱりか・・・)
幾分申し訳なさそうな顔をした新八に近藤は微笑んで見せた。
「いやぁ、情けない話しなんだが・・・最近どうもお妙さんに相手にされないのが心底きてるらしくてな。トシにまで心配されちまって・・・」
「それで?お妙の弟でありウチの助手でもある新八君を襲ってナニする気だったのかなァ?近藤さんよォ」
「・・・っ!!・・・いや、ナニってナニ?そんなことしないよ?するわけないじゃん!ナニ言ってんだ万事屋!・・・ただなぁ、お妙さんによぉく似た新八君を見たら、・・・こう、手が勝手に・・・」
「いや、手って言うか、全身で飛び込んできたからね?」
「そうですよ。正直こわかったです、近藤さん」
「うぅ・・・俺ァ、一体どうしちまったんだ・・・」
そういうと近藤は先程よりもさらに深くうなだれた。
(可哀相だけど、近藤さん自信がどうにかするほかないよなぁ。姉上が協力してくれる訳ないし・・・)
チラッと上司の顔をうかがってもあいかわらずやる気のないような、もう目の前のゴリラに興味すら示していないような顔で。
「・・・はぁ」
(ホントにこの人は)
どうあっても真選組に対しては意地の悪い人間でいたいらしい。
と、問題のゴリラはあらぬ方向を見つめ何故か瞳を輝かしている。
「・・・近藤さん?どうしたんですか?」
「・・・おーい、ゴリラ?オ―――イ、聞こえてますかァ?」
銀時が目の前で手を振る。反応がない。が、何事かブツブツと呟いている。
そして、なにやら不吉なことが新八の耳に届いてきた。
「・・・そうか、お妙さんを愛するあまり心と心がシンクロして、それで、お妙さんが愛するものまで愛しく感じるようになったんだ・・・」
「ぇえっ!ちょ・・・っ、近藤さん?」
「そうだ、きっとそうだよ勲、それしかないよ勲!だって俺は、お妙さんのピーターパンだものっ!!!」
「おい!ゴリラ、落ち着け!」
「そういうことで新八君、これからはこの近藤勲、新八君のことも全身全霊をかけて愛し・・・」
「落ち着けって行ってんだろうがァ、このストーカーがぁぁぁ――――!!!」
再び新八にボディアタックをしてきそうな近藤に、渾身のとび蹴りを食らわせた銀時。
二人が着地するのはほぼ同時で。
吹っ飛ばされゴミの山に突っ込んだ近藤は、綺麗な白目をむき泥まみれで転がっている。
その様子をただ呆然と見ていた新八は「ほら、今のうちに行くぞ」と声をかけられるとようやく買い物袋を持ち直し、上司の後を追ったのだった。
*
場所は変わって、真選組の屯所内。
恐ろしく牧歌的な陽気を尻目に、自室でおもしろくない書類仕事を前にした真選組副長、土方十四郎は一定の間隔で煙草の山をどんどんと高くしていた。
「土方さん。その灰皿に恨みでもあるんですかィ?」
今にも崩れそうなほど絶妙なバランスを保っている吸殻の山に、沖田はテンションも低く突っ込んでみた。
「総悟か。何の用だ?」
「いえ、お気になさらず。茶化しにきただけでさァ」
「・・・そろそろ体動かそうと思ってたところだ。相手してもらえるか、総悟?」
額に青筋を浮かばせて凄むが、当の沖田はすでに、トッシーの置き土産であるアニメDVDを物色していた。
「・・・チッ」
しばらくアニメの音だけが室内に軽快に流れる。と、ふいに、沖田が思い出したように口を開いた。
「土方さん。今日近藤さんは・・・」
「あぁ?近藤さんは今日は休みだ。ったく、朝一の会合で言っただろうが、ちゃんと話しきいとけや、ボケが」
先程のやり取りをまだ根に持っているのか、イラ立ちを隠さずに答える。
しかし当の沖田は全く気にする様子もなく続けた。
「最近、休みの日ってなるといつも出かけて行きやすよね、近藤さん」
「・・・そうだな。つぅかそんなの、いつものことじゃねぇか」
「そうですけどねェ、前と様子が違いまさァ。まさか土方さん、気付いてないんですかィ?」
その、人を見下した挑発的な笑みといったら。
(あぁ、クソムカつく)土方は、ギリギリと、今にも飛び掛りそうな顔で沖田を睨みつつ、一方でもうひとつ、頭の中では冷静な部分が働いていた。
「・・・気付かねェわけねーだろ。あの人が帰ってきても怪我してねェっていいてんだろ・・・」
「そういうことでさァ。なんだよ土方、分かってんなら勿体ぶんじゃねェよ~」
「うっせぇ!」
そうなのである。前ならルンルンと出かけていっても、帰りは決まってボロボロの雑巾と化していた。
言わずもがな、それは近藤の言うところのマイエンジェル、お妙のせいである。
それなのに最近ではルンルンで行ってルンルンのまま帰ってくる。
それが意味するところは・・・
「近藤さん、違ういい人見つけたんですかねェ」
「アホ云え。あの人いまだに枕の下にあの女の写真忍ばせてるんだぞ?そりゃぁ有り得ねぇ」
「・・・つぅことはなんですかィ?ついにお妙さんが折れたってことですかィ?」
「・・・」
「・・・」
なんともいいがたい沈黙。
鞍替えしたならしたで、上手くいったならいったでなぜ自分たちに報告してこないのか?
それとも、何かいけない商売にでも引っかかってでもいるのか。
疑惑が二人の中で膨らみ始めたそのとき、それを破る明るい声が響いた。
「沖田さ~ん。こんなところにいたんですか、探しましたよ」
「おぉ、山崎ィ、ごくろうかけちまったな」
「ハハハ、何てことないですよォ」
「って、山崎ィ!?お前、見ねぇと思ったら何総悟にコキ使われてんだ!!」
「あいてっ!」
強力な手刀でもって部下を諌める鼻息も荒い土方の前で、沖田は飄々としたもので。
「それで山崎。近藤さんの件はどうでしたィ?」
「はい、万事順調に尾行してきました」
「っな・・・お前ら・・・っ!!」
「それじゃぁ、報告を聴くとしやしょうか。・・・ねぇ、土方さん?」
「・・・お、おう。しょーがねぇな・・・」
そうして、副長とドSの間に漂う剣呑な空気もなんのその。
いたって能天気な山崎によって事の真相が報告されたのであった。
「・・・は?万事屋んとこのメガネ?」
報告を聞いた土方と沖田は思いがけない名前に揃って驚きの表情を浮かべた。
「そうなんですよ。まるでデートみたいに待ち合わせてると思ったら現れたのが新八君だったんです」
「それで、なにしてたんですかィ」
「それが至って平和なモンで。万事屋がかかわってるならキナ臭い事件かなんかと思いますよね?それが、フツーにご飯食べて、フツーに映画見て、フツーにゲーセンで遊んで帰って行きました。なんか、年の離れた兄弟みたいでしたよ」
「はぁ、いわれてみればそんな感じかねィ」
「そうなんですよ。見てるこっちもほのぼのしちゃいまして」
あはは、と暢気に笑う山崎に対し、土方は眉間の皺を深くしたままだ。
「しかし、解せねェな。メガネから懐柔する気になったのか、近藤さんは?」
「そんなんで懐柔されるタマじゃねェでしょう」
「じゃぁ、なんだってまた・・・」
結局、山崎の報告をもってしても疑問は三人の中で深くなる一方だった。
*
「というわけで、直接聞きに来やした」
「というわけって、どーゆーわけだコラ」
椅子の上で愛読書に熱中していた銀時は、目の前に立った招かれざる要注意危険人物に胡乱な眼を向けた。
昼食を終えた気だるい昼さがリ。突如訪れた不吉な黒い影。
ここに神楽が居なくて良かったと内心胸をなでおろす。
こいつらが二人揃えば、この建物は半壊どころじゃすまない。下のババアに今度こそ追い出される。というか消される。
「単刀直入にいえばですねェ旦那、新八君と近藤さんのことでさァ」
「いや、単刀直入すぎて分かんねェよ。新八がゴリラとどうかしたって?」
「あれ?ご存じないんですかィ?近藤さんと新八君、毎週のように一緒に出かけてるんですがねェ」
「・・・は?」
「ウチも事実を知ったのは最近なんですが、もしかするともっと前から・・・」
「ちょちょちょ、ちょっと待て、え?なんで?なんでウチのメガネがよそのゴリラと?」
「・・・それを聞きに来たんですがねィ。ご存知ないようで」
「俺ァ、何も聞いてねェ・・・」
(新八が俺に隠し事?つぅか、押し倒されそうになった相手と毎週?強引な奴が好みなの新ちゃん?)
銀時は混乱を努めて表に出さないようにしながら、情報をもってきた沖田に視線を戻す。
「で?奴らは、毎週のように会って何してんだ?」
「それが、至ってフツーのデートみたいなもんらしくて。映画見たり、ご飯食べたりってな具合らしいですぜィ」
「そのあとは?」
「は?そのあと?」
「いや、ないんならいい」
「別に旦那疑ってたわけじゃないんですがねィ。俺としては近藤さんが楽しそうなら騙されてようが何だろうが、どうでもいいんで」
「いやソレ、完全に疑ってるよねソレ」
「というわけで、このまま新八君待たせてもらっていいですかねィ?こっちもすっきりして帰りたいんで」
至ってマイペースなこのドSは我が万事屋に長居するつもりらしいが、俺はうちが半壊する確立を進んで上げるつもりは毛頭なかった。
「・・・いやぁ、悪いけど、今日のところは帰ってくれる?聞き出したら教えてあげるから」
「・・・分かりやした。・・・それじゃあ、今日はこの辺で」
「おう、教えてくれてサンキュウな」
そう言って軽く手を上げた銀時の視線は既に膝の上の愛読書へと落ちていた。
沖田は万事屋の階段を身のこなしも軽やかに弾んで下りた。
(旦那、いい具合に怒ってたねィ・・・。そんなに新八君の隠し事が許せないのか、それとも・・・)
最後の段から飛び降りて地面に着地すると、つぃっと沖田は看板を仰ぎ見た。
(いずれにしろ、新八君は帰ってきたら大目玉、でさァ)
足取りも軽く、スキップしそうな陽気さで懐からイヤホンを引っ張り出す。
フンフンと鼻歌も無邪気に、地味で目立たないけれどしかし多くの人に大事にされている少年を思ってみる。
(いつか、俺も、かまってみたいもんでさァ)
ニコニコと笑顔を浮かべたサディスティック星の王子様は軽やかに屯所へと帰っていった。
*
買い物から帰ってきて、ヤバい、と新八は思った。
いつもなら愛読書に集中した上司はこっちが「ただいま戻りました」といっても、「ん―」とか適当な感じに返すのに、今日はこちらから言う前に「お帰り、新ちゃん」と声をかけてきた。
手元から視線は上がらなかったが雰囲気が、怖い。
無言だが、時折こっちの様子を探るように動きがピタと止まるのが、めっさ怖い。
こういうときの銀時は決まって腹に何か抱ええており、かなり高い確率で、そりゃもうほぼ99%ぐらいの確立で、自分が被害にあうのだ。
(なんだ?銀さんが隠してたチョコの山、無断で没収したの怒ってるのか?いや、そんなのいつもだし、箪笥の下着の奥なんて臭いですぐ分かる場所に隠す銀さんが悪い。それともあれか?神楽ちゃんとアイス買い食いしたこと?)
「新八ィ。ちょっと、こっち来い」
洗濯物をたたみながら銀時の怒りの原因を探していた新八は、いつの間にか、それらをたたみ終わってしまっていた。
そのタイミングを見計らい銀時は声をかけてきたようだ。
(うわ、やばい・・・っ)
焦りながらも新八は覚悟を決める。
(だいじょうぶだ。全面的に僕が悪いことはないし、アイスは神楽ちゃんに半ば脅されて買っちゃったんだし、だいじょうぶ、だいじょうぶ)
「・・・なんですか銀さん、僕これから夕飯作るんですけど」
「いいから、すぐ済むって」
最後の防衛線が消えた。こっからは全面戦争だ。
しかし、銀時は強力な武器を持っている。常に臨戦態勢のソレの名は、二枚舌。
「お前、俺に隠し事してない?」
早速キタ!コレはいやな導入の仕方だ!
確たる情報を持ちながら、あわよくば相手の更なる弱みを握ろうとする戦法だ。
だが、甘く見ないでもらいたい。
「・・・いやぁ、そんなん思い浮かばないですね」
(この僕にはそんなもの通用しませんよ。アンタのおかげで鍛えられてますからね!)
銀時といるようになってから、随分と自分は強くなったと思う。特に、舌戦で。
一時は薄汚れたもんだと悲しく思ったもんだが、コレが大人になるってことかと開き直って久しい。
自分に非がないと思えばとことんまで知らぬ振り!銀時はコレの師範代といえるだろう。
「そーかぁ?」
一応は同意の返事を返すが銀時の目は依然として新八を探るように捕らえている。
(さあ、どっから切り出す?)新八は身構えた。
が、銀時からの次の台詞は、思いきりのいいストレートだった。
「・・・つぅかさ、近藤さんとはどういう関係?」
「・・・・・・え?」
思いがけない問いかけに一瞬固まってしまった。
それを見た銀時は嫌そうに言い辛そうに顔をしかめる。
「週末遊びに行ったりしてるらしいじゃん・・・」
なに、すねた顔してるんだろうか、この人は?
子供のように口を尖らすなんて、コレ、ホントに銀さんか?若干、頬が赤い気がするのだが・・・
それを意識した途端、新八は自分の血液がググッと沸き立つような気がした。
(何コレ?なんだコレ?何で僕までこんな・・・)
突然の感情の昂りに困惑した新八であったが、冷静さを取り戻そうと必死に返答に集中した。
「ぁあの、銀さん?近藤さんとは別に、・・・あの、・・・ただ依頼を受けて、一緒に遊んでただけです」
気付くと話しづらいほどに唇が乾燥している。頬が熱くて、目の奥がどくんどくん脈打っているのが分かる。
「・・・依頼?」
怪訝な顔をしている銀時に、新八は事の顛末を説明した。
*
それは、新八が往来の真ん中で押し倒されそうになるという珍事を経験した日にさかのぼる。
その忘れ去りたい珍事から4時間後。
新八は自宅の居間で、なぜか近藤と向かい合って茶をすすっていた。
「新八君、お茶のおかわりは?」
「あ、結構です・・・」
「そうか。お菓子も遠慮しないでどんどん食べなさい」
「はぁ・・・」
万事屋で夕食を終え帰宅すると、新八は居間で横になった。
姉はすでに仕事に出ており、昼間の疲れを癒すべく独り仮眠を取ろうかと思っていたのだが・・・
独りではなかったという訳だ。
いつものごとく何食わぬ顔でお茶とお茶菓子をお盆に載せて現れた近藤に新八は声も出せぬほど驚いた。
(何度経験してもなれないなぁ。・・・いや、慣れちゃいけない気もするけど。銀さんぐらいになれば気配とかで分かるんだろうなぁ)
そんなことを思っているうちに近藤はいそいそと席に着き新八に茶を勧めてきたのだった。
確かに昼間地面でつけたと思われる挫傷が顔面に広がっているあたり、あの珍事は夢ではなかったはずだが。
(早速、行動で示してきたってことか?例の、・・・愛がどーたらの・・・)
いぶかしむ僕を前に当の近藤は至ってくつろいだ様子で。
「・・・近藤さん。今夜は一体何の御用でしょうか?姉上ならもう仕事に・・・」
居た堪れなくなって口を開くと、ああ、といって近藤はかぶりを振った。
「今日はお妙さんに会いに来たんじゃないんだ。実は新八君にお願いしたいことがあってね」
「お願い、ですか」
わざわざ僕なんかにお願いだなんて。なんだろ?
(なんだ?真選組といえば攘夷志士関係?まさか密偵?そりゃ僕、山崎さんぐらい地味だけど、って、ごめんなさい山崎さん)
と、新八は一瞬身を硬くした。が、
「依頼といった方が正しいかな?もし良かったら、時々でいいからこうしてお茶を飲んだり、話し相手になって欲しいんだ。」
といわれて、一気に脱力した。しかも、全く、話しが見えない。
「はぁ・・・話し相手?」
「そう。話し相手。俺の休みの日にこうしてお茶するなり食事するなりして一緒にいて欲しいんだ。もちろん、時間を拘束するんだからそれなりに賃金は払わせてもらうよ。どうかな?」
にこにこと暑苦しい顔を乗り出してくる近藤に対し、新八はどこまでも冷めていた。
「・・・お話しするだけでいいんですか?」
「そう。俺が危惧しているのはいつまた往来で人を、その、・・・襲うかもしれないってことなんだよ。でもだからといって、ずっと屯所に引きこもるのも健康的じゃないだろう?」
「えっと、土方さんや沖田さんは・・・」
「アイツらもアイツらで忙しいからなぁ。それにいつも休みが被るとは限らんし」
他に親しい女性がいればそっちにでもお願いするか。・・・いや、近藤の場合、勝手にお妙に義理立てしてそんなことをするとも思えない。
「そういうわけで新八君にしかお願いできない」
面食らってやる気をなくしかけたが、なるほど確かに自分が適任に思えた。
銀さんはもちろん、夜兎とはいえ女の子の神楽ちゃんにはお願いできない。
それに目の前で大の男がめっさ悩んでいる原因が自分と無関係とは言えないところにあるのも、やっぱり気がかりだった。
銀時に言えば、「お前はまぁた、人のいいこって」とあきれられてしまいそうだが。
「分かりました。やらせていただきます」
万事屋の一員らしく、丁重に承諾の意を伝える。
「ああ、よかった。ほんとに助かるよ」
近藤がさっきまでの曇った表情から一転、本来の笑顔を少し取り戻したように見えた。
(近藤さんはこうでなくちゃね)
その笑顔を見て、依頼を受けてよかったと思えた。
「それで料金のことなんだが、一月3万くらいでどうかな?」
「さ、3万円・・・っ!?」
ということは一月で5回仕事しても一日6千円。
依頼内容が今までにないものだけに安いか高いかは計りかねるが、妥当のように思えた。
なにより、月に3万円の収入が約束されるとなると、万事屋としてはめっさ有り難かった。ごっさ嬉しかった。
新八は脳内で瞬時にこれらの打算を展開すると、お引き受けします、といって近藤の手を握っていた。
(あ、銀さんには収入のこと黙ってよう・・・あると思えば構わず使っちゃうからなあの人)
そうして、またひとつ、打算が追加されたのだった。
*
「・・・と、いうわけなんです」
「ふーん」
ことの顛末を語り終えた。
やっぱりなんか気まずいきもするが、銀時の態度が若干柔らかくなったような気もする。
それに気を良くした新八はしゃべり続ける。
「はい、会って話しをするだけなんですけど月に3万円もらえるし、意外と一緒にいて楽しいし、話してくれること面白いし、意外とためになるし、いいかなって」
そろりと銀時の顔をのぞき見ると、頬杖の上の顔が渋面に戻っていた。
(あ、あれ・・・っ?)
「あの、銀さん、すみませんでした。今度からは・・・」
「・・・楽しい時間を邪魔されたくなかったわけか」
「・・・え?」
「新八君は、銀さんといるより、ゴリラといる方が楽しいワケだ?」
収入を隠していたことに対する謝罪モードに移行していた新八だったが、銀時のつぶやきは聞き取れた。
聞き取れたのはいいが、その後の新八は後のことなど考える余裕がなかった。
銀時のつぶやきを聞くと同時に、どうしよもなく熱い感情が、胸の辺りに渦巻いた。
「なっ、ち違います、そんなこと・・・言ってないじゃないですか。・・・僕はその、・・・僕は困ってる人の依頼を受けたまでです」
自然と俯く視線を上げられないまま新八はなんとか弁明した。しかし・・・
(なんだ!??コレ!?なななんで、なんでこんなに顔熱いんだ!?っていうか、なんか恥ずかしい!??)
やり場のない感情となかなか納まらないというか、むしろ高まる一方の頬の熱にかるくパニック状態だった。
「・・・ま、その様子だとイケナイコトはしてないみたいだし、今回はこんぐらいで赦してやるか」
やけに近いところで声がしたので顔を上げると、銀時はデスクから新八の目の前へと移動していた。
全然気付かなかった。
でも今はそれどころじゃない。僕、今、なんか、ヘン・・・―――
「・・・んな顔するなよ・・・新八が俺のコト好きなことはちゃぁんと分かったからよ」
「・・・好きなんて云ってませんよ。僕がすきなのはお通ちゃんです」
「あぁ、そうだっけ?まぁいいや。で、新八君?」
「・・・はい?」
「もうゴリさんと二人で会うのは止めなさいね」
「どうしてですか」
「どーしてもです」
キッパリと言い切って、銀時はまた一歩、新八に近づいた。
「いい収入になるんですよ、それに、ご飯もたかれるし。・・・なんだったら銀さんも一緒に・・・」
「ダメ、却下。てぇか、ありえねぇだろ。俺があの野郎とメシ喰うなんざ」
「あ、それもそうですね・・・」
「そ、新八意外とはありえねぇ。全くもって無意味」
「・・・え」
「だから今度からは銀さんとあんなことやこんなことしましょうね」
(あんなことやこんなことってなんだろう・・・?)
大いに気になるところだし、スルーしたくない気もするが、な?と念を押す銀時がいつもよりちょっと必死で、いつになくその眼がやさしくて、頬に添えられた手が気持ちよかったので・・・
「・・・わかりました」
気付いたら首を立てに振っていた。それに満足そうに微笑んだ銀時は新八の両頬を包んで、額に小さく淡いキスをした。
銀→←新(新八無自覚)。
当て馬もこれまた無自覚な近藤氏。
近→新までいかない。お、コイツ可愛いじゃんって気付いたところで鳶に持っていかれた感じ。
家計を護るため銀さんに隠し事をした新八でしたが、思いもよらないめっけ物をしました。
2009/04/15
・・・長くてスミマセン。自分、コンパクトに書けないんです。
精進します。
・・・長くてスミマセン。自分、コンパクトに書けないんです。
精進します。
PR
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