「レンアイ かたぱると5」・完
早いものでもう2月ですね。
自分用バレンタインチョコを選ぶのに忙しい今日この頃
チョコを選べる幸せを堪能しております。
連載モノ「レンアイ かたぱると」がついに完結しました。
ここまでお付き合いいただいた方、どうもありがとうございました。
つづきからどうぞ。
自分用バレンタインチョコを選ぶのに忙しい今日この頃

チョコを選べる幸せを堪能しております。
連載モノ「レンアイ かたぱると」がついに完結しました。
ここまでお付き合いいただいた方、どうもありがとうございました。
つづきからどうぞ。
レ ン ア イ かたぱると 5
僕は病院に来る前からホントどうしようもない人間だった。
今となっては擦り切れて、殆ど伝説と化した“侍”という言葉の上になされた教育を親の死というものでハンパに終えられたからか、それとも生来の素質ゆえか、これといって誇れるところはあげられない。
肉親の姉にさえ褒めてくれた記憶は数えるほどしかない。
ただただいつも泣いていた僕の頭を何も言わずに撫でてくれていた。
そんな僕でも寺子屋を終えて、仕事について、ようやっと一人前になったと思えた頃に持ち上がったのが姉の結婚話だった。
べつに、特に相手に文句があったわけではない。
なびかぬ姉に長年好意を伝え続けた根性の持ち主だ。幸せにしてくれないわけが無かった。
我慢の人、根性の人。そう考えたとき、一つの大きな事実に気付いた。
なんと己の不甲斐ないことか、と。
人の邪魔にしかならない自分というものに今更ながら嫌気が差したところで、宇宙病にかかっている事が分かった。
僕は心底安堵した。素直に、これでよかったと思えた。
手前勝手な考えかもしれないけど、僕が切り盛りするより面倒見に定評があって、尚且つ実力のある近藤さんのほうが道場の師範に向いていると思えたし、なにより、姉と二人、幸せそうにしている風景が簡単に想像できたから。
さくらが舞う中で僕の病気を知った姉は、やはり何もいうことなく、静かに僕の頭を撫ぜた。
***
そうして行き着いたのがあの人たちがいる、この病院だった。
先日のおこたでの一件があって以降、坂田先生は僕を避けているようだった。
神楽ちゃんと話していても、見向きはするが寄ってこようとはしなかった。
無理も無いと思う。僕がしていることは医者に対する冒涜だろうし、元より人に対してアレコレつっこんだ介入をする人のようには思えないし。
これでいいんだ、と、窓ガラスに映ったなんの面白みも無い自分の姿を眺めながら改めて思うのだ。
昼食を終えた午後の病院は気だるくて、只でさえ病院の中というものは退屈なのに、幾分温かみを取り戻した陽射しがそれに拍車をかけているようだった。ノルマとしている本は読んでしまったし、一通りの娯楽は揃っているとしても、外に出られないのでは自然、息が詰まってくる。それに加え、病気にかかる以前であれば一応、日々の鍛錬を欠かした事のなかった十代の僕にとっては物足りなかった。
そうすると自然とフラフラと院内を徘徊する事になる。会いたくない人がいようとも、ずっと病室の中に篭ってはいられなかった。
廊下を行きかう人々はその大小はあろうとも病を抱え身の上を脅かされていると思うと未だに不思議だ。
夏の頃には気にならなかったが、冬になりますます外界と遮断された気がするからだろうか。どうしても気になってしまう。さわさわと胸を撫でていく不安や焦燥がはっきりと知覚されて落ち着かない。
そういう時決まって僕は、施設の中でも特に奥まった秘密の場所へ行くことにしている。
患者の領域を少しはずれた、関係者もあまり近寄らない僕のおきにいり。
ひっそりとしたそこの明かりといえば、非常口を知らせる緑色の表示が壁にぼんやりと反射するだけだ。
正面の玄関とは違う。職員玄関の反対側。
恐らくは病との闘いを終えて永遠の安らぎを手に入れた人のための出口。そこが僕の安息の場所だった。
決して入り口にはなりえないそこ。いや、身体の出口ではあるけど、魂にとってはどうだろう。
もしかしたらそこは入り口に見えるのかもしれない。
そんなことを考えながら僕はただ時が経つのを待つのだ。
*
「・・・んなとこで何してんだ?」
突如かかった声に体がびくりと反応する。
振り返るとそこにいたのは全身を緑に染めた坂田先生だった。
安息から一転、急に上がった心拍に、視界が揺れた気がした。
「・・・先生こそ、仕事サボってこんなとこに何のようですか?・・・あぁ、それとも、―――」
ここから去っていく方が出ましたか?
「そうなれば邪魔ですよね。部屋に帰りますよ」そういって先生の脇を通り抜けようとした僕の腕を、驚くほど強い力が引き返した。
「――ッ痛・・・!!ちょっ、・・・せんせい、――」
離してという前に更に引き寄せられる。
ドン、と衝撃があったかと思うと、僕は先生の匂いに包まれていた。
体が状況を否定して硬直する。
「・・・・・・やっぱ、ムリだわ――お前を手放すなんて出来ねェわ・・・」
耳元で、息がかかるくらい近くで囁かれた言葉を、僕は到底理解できなかった。
だって僕はこのヒトのものになった記憶なんてこれっぽちもないんだから。
「な、なにいってるんですか・・・僕は、・・・ぼく、は、―――」
いつもの調子で言い返してやろうと思った言葉は期待に反して掠れてしまった。
喜ぶ心と哀しむ心が膨らみすぎて本当に死んでしまうかと思った。
先生の体の熱や匂いばかりが感じられて、それが余りに心地好くて、体が、心が震えてどうしようもない。
――泣きたい。
泣いてもどうにもならないのに、ここ最近僕はこの人のことばかり考えていたから。
いつも付きまとっていてくれた煩わしい存在に繋ぎ止められていたらしい僕の心はいい加減限界だった。
突き放してしまってから、その存在の大きさを認識する。
やっぱり僕は、いつだって、気付くのが遅すぎる・・・―――
そうして、僕の正直な両腕は震えながら持ち上がったかと思うと、先生の背中に回ってしまう。
グズリ、と鼻をすすったら、先生の腕の拘束がもっと強くなった。
「いかせやしねェ・・・いかせやしねェから・・・」
先生はまた泣くのかと思った。
泣かせないわけじゃないのに。先生と神楽ちゃんには笑っていて欲しいのに。僕なんかのために涙を流させて。
そう思うと申し訳なくって、慰めるつもりで背中を撫でてあげた。と先生がいきなり身体を離した。
といっても、まだ至近距離で顔をのぞけるくらいの距離。
沈黙に耐え切れず何と声をかけようかと迷っているといきなりガバッと先生の顔が上がった。
「悪ィ・・・新八。―――愛してる」
そういうと先生はおもむろに僕の口を塞ぎにかかった。
「――ッ・・・ふ、ん――」
(な、なに、-――)
僕が動けないのをいいことに先生の拘束はますます強くなる。
(この人、僕を、“あいしてる”っていってた・・・)
『愛してる』
言葉を理解した瞬間だった。キスの最中だというの僕の肺は遠慮なく悲鳴を上げた。
「-―ッ、ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!!」
「だ、大丈夫か!?新八!!?」
「大丈夫かって、アンタ・・・意識のある人間に、息吹き込むなんて、何考えてるんですか・・・ッ!!」
「・・・・・・はぁ??」
痛みにうずく胸を押さえ、涙ながらに訴えると、坂田先生は心底僕が何言ってるのか分からない、という顔をした。
キョトンとした顔に軽く殺意を覚える。僕の肺は突如もたらされた異変によって完全にパニックを起こしているというのに。もちろんパニックを起こしているのは僕自身もだがそのことに関しては今は触れないでおきたかった。
そして、先生はしばらく咳で苦しむ僕を放っておいてひとり考え込んだ後、カッと目を見開いたかと思うと、僕の手を引いて制止も聞かぬまま僕を薄暗がりから連れ出した。
*
「おぉ、新一君。おんしの肺、膨らんできちょるぜよ」
「うそッ!!」
「やっぱり!!」
強制連行されたレントゲン室で有無を言わせぬまま撮らされたフィルムを前に、僕と坂田先生は揃って声を上げることとなった。
呆ける僕を尻目にガッツポーズまでとってる。こんなにハッスルした先生を見た事がなくて素直に感心した。
というか、いやいや、ちょっとまってよ。
信じられないと思って目の前にいる、坂田先生とは正反対の、真っ黒いモジャモジャを見つめていると、それが通じたのか坂本先生が嬉しそうに説明を続ける。
「ウソじゃなかぁ。元の通りとは言わんけど、明らかに良くなっちゅうきに。まっことめでたいのぉ、新一郎君!」
坂田先生の勝ち誇ったような高笑いの合間に聞き取れた言葉を、僕は複雑な気持ちで聞いていた。
つい5日前には問答無用で、ある意味では順調にしぼみ続けていたとうのに・・・一体、なんで――
「いんやぁ、実はのぅ、どの薬試してもまっったく効果がないもんじゃきに、こりゃちっとヤバいっち思っとったとこでのぉ。わしゃぁまだおんしの姉さんに殺されとうないもんで。ほんで金時、おんしどげんして新二君ば治したがじゃ?」
「あぁ?そりゃぜってぇ教えねェ。企業秘密だ。なぁ新八君?」
「なんじゃぁそりゃぁ?ズルイぜよ金時ィ、アハハハ」
アハハハ、ダハハハとレントゲン室に響く耳障りな笑い声の中で新八は、人生最高潮に沈んでいくのだった。
*
「つまりはアレだろ?自信がなくなるとかがアウトなんだろ」
「はぁ、自信、ですか・・・」
「・・・まぁ、なんつうか、・・・自分みたいなモンはこの世に必要ねェンじゃねェかぁとか、愛されるに値しないんじゃねェかぁとか、そういう俺に言わせて見ればアホみたいなネガ思考がだな、なんやかんやでお前の肺をしぼませてたんだよ」
「・・・」
心がしぼむという言葉を文字通り体現してしまう恐ろしい病。
それが新八を蝕む病気の正体だった。
新八が病気を発症した時期や、進行の度合いから見てもそういうことだろうと、先生はいつもと変わらぬ調子で言った。
僕は、コタツの天板の上にある雪見だ○ふくの空から目が離せなかった。
先生が持ってきてつい先程自分で空にしたものだった。
先生の説明はいちいち納得できる。
この人もこれで仮にも医者だから言ってることは正しいんだろう。
でも、新八はそれを全力で認めることは出来なかった。
「さて、そこで問題です」
新八の心情を読んでいたかのようなタイミングで銀時が核心に触れようとする。
「このふざけた病気に効く特効薬は何でしょーか」
分かりきったことをにしゃにしゃ笑いながら聞いてくる。その顔は憎らしいったらなかった。
「・・・さぁ、しりません」
「ウッソだぁ~~。新ちゃんったら分かってるくせにィ」
いいえ、断固として分かりません。答えがあったとしても拒否させていただきます。
「せーかいは、愛だよ、あ・い」
それも飛びっきり上等で、お前専用なヤツな?
普段なら聞くことも無い、とういうか、聞きたくも無いキザな台詞を吐いて自分で照れてれば世話は無かった。
色素の薄い先生が明らかに赤面していることを視界の隅で認識した。
直視なんて出来そうも無いから。
「・・・言いたいことはそれだけですか?用事が済んだら早く当直室へ帰ってください」
「・・・これで終わりなワケねェだろが・・・つぅかさぁ、おまえいい加減コッチ向けよ」
そういっても強引に肩が引かれることはなかった。いっそ無理矢理にでも向かせてくれればいいのに。
「お前が好きだって云ってんの。愛してんよ、新八君」
「それはどうも・・・お陰で命拾いしました」
「ちげぇだろ?こんな一方通行なカンジお断りよ?人生はギブアンドテイクだろが」
「医者が患者に見返り求めないでください」
「そりゃもらわねェと折り合いつかねェだろ。だってよー、この先ずぅーーっと、お前に愛を処方してやるってんだからよー」
「・・・っ、だからっ!照れるぐらいなら云うんじゃねェ!!バカか!?アンタバカだろ!!」
あぁもう。ツッコミに任せて振り返ると、ほてった顔を気にしながらも頬を弛めた先生と目が合った。
ホント勘弁して欲しい。
僕はアンタのこの顔に弱いんだ。
与えれば与えただけ、与えられなくてもその顔見たさに自然と共有するようになった時間は笑顔と喧騒と紛れもない愛情に満ちていた。・・・んだと、思う。先生みたいなキザったらしい言い方をすれば。
神様がくれたのは体のいい不治の病なんかじゃなく、究極の荒治療だった。
千尋の谷に落としておいて這い上がるのを待つってアンタどこの母親だ。
先生と神楽ちゃんと過ごした日々は僕が僕を愛する気持ちを回復するためのリハビリ。
その究極の荒治療の末に僕は前なら考えられないような日常を手に入れることになっていたんだ。
なかば諦めに近い感情でそう思った。そうして僕は、最後の試練に手を伸ばす。
そぅっと、色素の薄い頬に手を添えれば、目を細めて擦り寄ってきた。
あぁもう。完敗でいいよコンチクショー。
「僕も、愛してますよ、坂田先生」
こうして僕は、世界最高のカンフル剤にキスをした。
2010.2.2
「坂田先生じゃねェだろー。銀さんだ銀さん。とうわけでテイクツーいってみようか」
「・・・やっぱアンタ、いっぺん死んでください」
愛を前には侍の決意も揺らぎます。
意固地で優しい新八を、銀時にはがっちり掴んで離さないでいて欲しいものです。
ところで新八が自信を取り戻せたのはいいんですけど、最大の試練(お妙)が当然二人の前に立ちはだかります。
確実にいっぺんどころじゃ済まないですよね。
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