「レンアイ かたぱると4」
あけましておめでとうございます。
しれっといってますが、暦見てみろってかんじですね。
昨年に引き続き、なんとかのろのろペースで書き進めています、銀新小説。
もしお付き合いいただけたら、そして少しでも銀新成分の補充につながれば幸いです。
しれっといってますが、暦見てみろってかんじですね。
昨年に引き続き、なんとかのろのろペースで書き進めています、銀新小説。
もしお付き合いいただけたら、そして少しでも銀新成分の補充につながれば幸いです。
レ ン ア イ かたぱると 4
今年は例年より猛烈な寒波が日本列島を覆っているらしい。
連日の大雪は溶けることなく降り積もり、夏に散歩した小道や秋に読書したベンチをあっという間に覆い隠してしまった。生まれてこの方、江戸から出た事が無い新八にとって、枯れ草色ではない白い冬、というものはなんとも新鮮で、年甲斐もなく浮き足立ってしまう。
窓の外に広がる銀世界は江戸っ子の僕としては何時まで見ていてもいいぐらいだった。のに・・・――
「おっ前、なんでおこたに蜜柑がねェんだよ。おこたと言えば蜜柑と雪見だ○ふくだろうが」
「知りませんよ。自分で買ってきてください」
「じゃ、百歩譲ってポッ○ーで」
「いや。○ッキーおこたと関係ねェよ」
仮にも患者様の個室に、よくもまあ、図々しく居座れるものだ。
白銀の世界とか、雪の結晶とか、雪男だとか。そういった雪を前に尽きることのない想像とその風情。そういうものをぶち壊すのは何時だってこの人で、今日も回診と称して現れて、非難の視線に堪えることもなく、冷えた身体を僕のいるおこたに滑り込ませたのだった。
さびーさびーといいながら手を摺り合わせる姿はおっさんを通り越して老人に近い。絶対、本人にはいえないが。そんなに冷えるまでこんなに空調の行き届いた院内のどこで何をしていたのか。
聞きたいようで、でもやっぱり、聞いてしまうのは癪で。
そうして悶々としている自分には構いもしないで、しまいには甘味の要求とか。この人はホントに人の予想を裏切らないな。マジで、どうしようもない人。
撫すくれた表情を作ってみても、体が急に温まったことによって引き起こされた睡魔に襲われているらしい先生はまったくのマイペースで、いつものように、また怒るのもバカらしくなってしまう。
実際問題、こんな人間相手にいちいち気をもんでたらこの社会でやっていけないと、僕は思うわけです。
どんなにしつこく眼鏡をネタにからかわれようとも、愛するアイドルを理解されずとも、患者の部屋に冷たい風を引き込んむ阿呆に遭遇しようとも、決して自分を乱さない。むしろ相手を惑わすくらいがいいんです。
なんて、どうにも歪んだモットーを立てる思考とは裏腹なところで、新八は自分を苦く思った。
今の自分にとって、この冷たい風というのが一番やっかいで、案の定、喉は途端に不調をきたした。
「・・・ッ・・・、ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
あぁカッコ悪い。堪えきれずに咳がもれた。苦心して視線を上げてみると先生と眼が合う。
起き抜けでどうにもこうにも老犬にしか見えない濁った瞳。それをさらに歪ませて、いつもの心底めんどくさそうな、なにもかもが嫌そうな苦汁の表情が作られていくのを案外近くで見る羽目になった。
「んだよ、新八は軟弱だなァ。―・・・ったく、薬どこだよ」
そういって先生はベッドサイドの机に置いてある薬袋をガサゴソいわせた。
(あ、ヤバい――)
しばらくゴソゴソと中をあさっていた先生の手がピタリと止まる。
そのまま袋を逆さまにしてベッドの上に中に入った紙袋をすべて広げてしまった。
錠剤にカプセルに粉薬。色とりどりのそれらを一通り確認すると先生はゆっくりとこちらを振り返った。
顔は蛍光灯に白々と照らされて、背景の白と混ざって判別し辛かった。
と、ふいに先生が口を開いた。
「・・・おい、新八テメェ。ずいぶん薬余らしてるみたいじゃねェの?」
「・・・そうですか?ちゃんと飲んでますけど」
「ウソこけよ。先生の目は誤魔化されませんよ?なんだアレか?苦くて飲めねェってんならシロップにでも変えてもらうか?」
「・・・違います。そんなんじゃ・・・――」
「いいや駄目か。そんなんじゃヨケー処分しやすくならァな」
いまや先生の目はぐぐっと鋭くなり、普段の平穏な気配は纏っていなかった。
(先生・・・――)
「・・・」
「いままでどんだけの量捨ててきたんだ?新八」
「・・・」
「おい・・・何とか言えよ」
普段からは、考えられないくらい怒りを滲ませた先生はほんとに恐かった。
「・・・僕は、飲みませんよ」
そういった僕にひたと向けられた眼差しは刃物のように鋭くて。到底医者なんかには見えない。
「フザケンな。・・・テメェが無事でいないとお前ェのねぇちゃんが乗り込んでくんだよ・・・」
姉を引き合いに出せば僕が容易に折れるとでも思っているのだろうか。
いや、少し前までの僕ならそれで十分だったかもしれない・・・でも、少し前の自分ならこんな馬鹿げたことはやらなかっただろうから、やっぱりなんともいえない。
じぶんでじぶんの命をあきらめるなんて・・・――
じとりと向けられたままの眼は、やはり医者の眼なんかじゃなかった。
患者の前でポロポロと、涙を流す医者なんか、僕は知らない。
「ホント・・・フザケンなって、新八・・・いいから、飲めよ」
なにが、「いい」のか。
生きることを許された“いい”なのか。僕の意思など関係ないから、どうでもいいから、とにかく生きていろの“いい”なのか。
どちらにしろ、僕はそんなの要らなかった。
「飲めよ・・・新八ィ・・・」
そういって僕を抱き寄せた先生の額が肩に乗った。
ゆるゆると拘束を強くしてくるこの医者は駄々っ子のようでいつもの逆だなとふと思った。
*
僕は親戚が何といおうと傍を離れなかったし、姉上も離すつもりは無かっただろう。
それは紛れも無い事実で僕ら兄弟の誇りだ。
そう、たとえ、多くを犠牲にしたとしても。
幸せの形が人それぞれといわれても、
確かに姉上はずっと歯を喰いしばって生きなければならなかったし、
新しい簪を買いもしなかったし、
笑顔と我慢は一級品に会得したし、
・・・愛する男性に“愛してしる”とも言わずに文字通り足蹴にし続けた。
僕は愚かです。どうしようもないおお間抜けです。
姉上の幸せを奪い続けてきた僕は、
誰よりもあの人の幸せを望んでいるふりをしていたんだ。
いつか失うことは分かっていた姉という存在を自分に縛り付けて喜んでいたんです。
どうぞ、笑ってください。
あぁ。・・・
どんなに多くを強いて来たんだろうか・・・大好きな姉上に。
眩暈がするほどの後悔と自責の念は、刷り込まれた幸せを手放さなければいけない恐怖によって再び捩れて挫けてもみくちゃにされて、気付けば深い嫉妬も上塗りされていた。
姉の思い人は笑っていた。
僕に笑顔を向けていた。あの曇りの無い笑顔を。
皆の我慢の元凶を見据えてにっこりと。
強い人とはこういうものを言うのだろう。
しかし、であればこそ、僕のこの胸はその喪失に耐えられそうも無いのです。
だからこのまま、あなたの笑顔が僕だけのモノである今のまま、
逝かせてください。僕はそれが幸せだから。
だから、これは、この病は、
*
「神様が僕にくれた最高のプレゼントなんですよ・・・?」
だからそんな哀しそうな顔をしないで―――
2010/1/22
お医者さんな銀さんが気付いたら泣いていました。
書いてる自分でびっくり。
書いてる自分でびっくり。
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