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「ゆうがたり」

劇場版をみて衝動的に書き上げました短編です。
平穏を取り戻した後の少年は...



 
 
絶望のうちに閉じることの無いように
アナタの微かな笑みを頼りにつむぐ日々
分かち合って許しあって、確かなものは絆一つ在ればそれでいい
 
 
 
 夕日に溶けてしまいそうな後姿を数歩遅れて見守れば、不機嫌そうに差し出される大好きな手。
 わざわざ荷物を持ち直させてそれでもまるで僕が悪いみたいに乱暴に取られた手を辿れば、間近に浮かぶ赤い頬。
 
「銀さん今夜はどうします?」
「アラ、新ちゃんたら積極的~」
「明日仕事あるんですから夕飯はウチで食べて下さいよ」
「スルーかよ。・・・全く可愛くねェ」
「あ、そうだ。神楽ちゃんと定春が仕事帰りに近くの公園行きたいって」
「あン?そんなんオメェらだけで ――
「小川に下りて遊ぶことも出来るトコらしいですよ」
 視線は前を見つめたまま聞かないフリ。
 頑張ったけど握った手に少し力が入ってしまった気がする。
「・・・あいつらぐらい小川が似合わねェヤツらを俺ァしらねェけどな。・・・草団子でヨロシク」
「いいですね。お弁当も持っていきましょうか。さっき神楽ちゃんはりきって準備したんですよ」
「ふぅん・・・ ―――新八」
 
 呼ばれて頭だけで振り返った。玄関の戸にかけた手はそのままに。
 視界を塞ぐ大きな影に驚くことはなかった。
 素直に思いを唇で受け止める。
 深くなることはない口付けはそれでも僕の心に深く入り込んで、十二分に愛しさを注いでくれる。
 間近で覗いた瞳はすぐに逸らされて、何事もなかったかのように僕より先に家の中に入っていってしまった。
 
「銀さん」
 
 呼んで今度こそその背に触れる。
 骨格をなぞる様にして腹の前に回した手はぎゅっと上から握られた。
 僕の両手を易々と包む銀さんの大きな右手。
 トクントクンと伝わってくる鼓動は僕や神楽ちゃんとなんら変わらない、確かに人のものなのに。
 
「新八?」
 
 恐いんです銀さん。あなたがあまりに大きすぎて。
 もしあなたの優しさも微笑みも夢だったんだよといわれたら、それこそ悪夢の始まりだ。
 そんなはずはないと思ってみても泡沫の影を背負うシルエットに僕の心はいつも震えている。
 
「新八」
 
 無骨な手に頬を撫でられ正面から抱きしめられてもまだ安心できない。
 恐いんです  恐いんです  恐くてなきそうなんです
 
 ホントに僕はダメなやつだ。
 あなたにこんな不安な顔をさせてしまうなんて。
 僕が受け取って欲しいのはそんな苦いものじゃないのに・・・
 
 ただ日常をこの身に纏って、あなたの帰る道しるべになりたい。
 激情をその剣に乗せて振るうとき、心が過去に帰ったときにほんの僅かでもいい、
 神楽ちゃんや定春の傍らに僕の顔を思い浮かべてくれたら。
 そして、「ただいま」といって微笑んでくれたらそれは極上の幸せなんだ。
 坂田銀時にこれ以上望むことはない。
  ―――望んじゃいけないんだ。
 
 
 
 どうぞ、いってらっしゃい。
 そうして満足したら、帰っていらっしゃい。
 
 
 
 あなたの微笑みが確かに存在したこの場所へ ―――
 
 
(2010/05/23)

** ** **

 
原作の後日談でも、若干元気がなかった新八君が気になってしゃーなかったです。

女々しいのではなくて、これもれっきとした傷の回復。
痛んだ心の修復期間を経て万事屋の絆はより一層めきめきと、強くなっていって欲しいものです。

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