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「ただより高いモノはない・前編」

熱が出てシンドかろうが、銀新があれば幸せだと、痛感しております。
感染性の胃腸炎だって。。。初めて罹ったよーつらいよー


「続き」は現代設定パラレルです。あいかわらず銀新です。

パラレル大丈夫!オリキャラだってどんとこい!(悪役だけど)
・・・な方はいってらっしゃいませ!






ただより高いものはない その1
 

 
 久しぶりに歩く歌舞伎町は以前来た時と同じように夜のしじまなんて言葉を忘れ去ったかのように賑わっていた。
 客引きのおじさんから安そうなドレスを着た女までが入り乱れた道を歩くと、その混沌として埃臭い様子にわずかに酔いを覚えた。
 
(コレ見て盛んないあたり、俺も年取ったってことなんかねぇ)
 
 二十台も半ばをすぎれば“老い”の二文字が意識に上るのも仕方のないもので。認めたくはないが何をするにもダルい、メンドい、帰りたい、ってな具合でヤル気なんてモンは皆無だった。
 ちかごろとみに己の身体を気遣う機会が多くなった。
 
(やめとこ、病は気からっていうし・・・)
 
 慰めになっていない慰めで自分をごまかしたそのとき、銀時は前方にふと不可解なものを見つけた。
(なんだ、アレ?明らかに浮いてるよな?)
 銀時が違和感を感じたモノ。それは独りでビルの壁に背をあずけて立つ、15,6歳の少年だった。
 店と店の間にあるわずかなスペース。 そこにもたれかかった少年の顔は地面に置かれた看板の白熱灯に照らされて時折チカチカと点灯している。暗闇にぱっと浮かび上がる顔は少年のものらしく淡い光を纏っているがそこに浮かぶ表情はなく、地面の一点を見つめて固まっていた。
 近くにいる呼び込みの兄ちゃんはそんな様子の少年に構うこともなく、通りかかるサラリーマンに熱心に店の女の子の可愛さを説明している。
(あんだ?何で誰も話しかけねぇんだ?)
 俺にしか見えてないわけじゃあるまいし。まさか幽霊・・・・・・
 と、ここまで考えて銀時は思考に急ブレーキをかけた。そのままUターンして違うことに思いを巡らせる。
(そーいや、明日は冷え込んで雪が降るとかいってたよな結野アナ。あいかわらず笑顔たまんねぇ可愛いよな雪ぐらいどんどん降れって気になるなーまったく)
 
 そうこうくだらないことを考えてるうちに少年の前に差し掛かる。
 
 
 白熱灯に浮かび上がる姿。
 変わらぬ表情。
 光を弾く黒髪。
 そして、・・・―――その目は潤み、ほっぺたと鼻の頭が赤くなっていた。
 
 
「・・・あ――、お前、さ。なにしてんの?こんなところで?」
 気付くと声をかけていた。
 突如、目の前を塞いだ長身の男に少年がビクッと身じろぐのが分かった。
(いや、驚かしたかったわけじゃねぇぞ)
 というか、自分がなにをしたいのか自分でもよく分かっていないが。
 見るからに厄介そうな少年。補導員にはいはい、いらっしゃ~いと連れてかれること請け合いだ。
 それなのに。声をかけずにいられなかった。
 よく見れば小さく震えている。 まぁ、今は怖さもあるのかもしれないが。
 一度声をかけても強張った様子は変わらない。
「おい?聞こえてる?寒さにやられて口利けなくなったか?」
 こんなときに相手の心を優しくほぐす方法なんて心得ていない。
 よって責めるような口調になった。
(う―――ヤりずれぇ。家出少年懐柔しようなんざ考えたことねェもんよ)
 失敗感と気まずさに投げ出したくなる心を抑えてもう一度声をかけようと口を開きかけたそのとき、少年がついと顔を上げた。
 ばっちりと正面から合わさった視線の先には、意思の強そうな漆黒の瞳があった。
 
 急に顔を上げた少年に面食らいながらも銀時は次の言葉を探す。
 と、少年が聞き捨てならないことをポツリと漏らした。
 
「綿飴みたい・・・」
 
 その一言に一瞬固まる。
 
「・・・あのね、そう見えるだろうけども、まず、人の質問に答えよう?」
 間の抜けた一言に銀時は一気に疲れが溜まっていくのを感じた。
 わずかでも緊張した自分が馬鹿みたいだと思った。
「なんでこんな所に独りでいんのよ少年」
 その問いかけにふわふわの頭に見入っていた少年が正気に戻る。
「・・・こんなところにいるんです。客引きに決まってんじゃないですか」
 その少年は再びひたと銀時を見つめて、事も無げに信じられないことを言い出した。
「・・・客引きって、え?お前客とんの?」
「いけませんか?こっちも商売なんで邪魔しないで欲しいんですけど」
「いや、悪くねぇ・・・のか?いやいやいや、見つかったらヤバいよ」
「お客さんが、でしょ?まぁ要は見つからなきゃいいんですよ」
「・・・はぁ。そうなんだ。・・・・・・それで、いくらなの?」
 
 自分でもとんでもないことを言っているのは分かったが、目の前の少年の方が驚いているようで。
 見開かれた漆黒の瞳はつぶさに銀時を観察して離さない。
 
 一方の銀時は自分に驚きつつも、なぜか目の前の少年が言う次の言葉にしっかりと集中していた。
 変な動悸がする。
 ・・・つぅか、そんなに見んなよ。
 
「・・・いくら出します」
2万」
「却下。安すぎます」
「ぁあ?どこがだよ?だとうな線だろが」
「いいえ。・・・・・・だって、僕・・・、初めてですもん」
「え・・・はじめてっ、て・・・」
 
 衝撃告白第二段。目の前で客引き宣言した少年は今日がその身を誰かに明け渡す初めての日だという。
 ゴクリと、無意識のうちにつばを飲み込む。
「じゃぁ、4万で。これ以上は持ち合わせてねぇよ?」
「4、か・・・幸先悪くていいや・・・」
 少年は何事かぼそっとつぶやいてから、
「いいですよ。お相手させてもらいます」
 と、にっこりと顔を上げて微笑んで見せた。
 
 
 
 
 そうして銀時は新八と名乗った少年と一緒にお風呂に入っていた。
 
 安いホテルで済ませようと考えていた銀時だったが、新八は当然のように「泡の出るお風呂があるところがいいです」と思いがけないことを要求してきた。
 贅沢言うな、と一蹴しようとしたが新八は断固として譲らず、結局知ってる中では一番マトモでキレイな、アワアワ付きのホテルにしてやった。
 「わぁ、ホントにアワアワだ」などと変なところで関心して笑顔をのぞかせる少年を見ていると、まぁ、たまにはいいかな、という気分になっていた。
 しかし、これから自分がスンゴいことされるかもしれないというのに目の前の少年はいまいち緊張感というか焦燥感?みたいなモノがない。
 もしかして金持ち逃げしてトンズラこくつもりか?と思い至って「フロ、一緒に入んぞ」といっても視線を合わせた後、「あぁ、はい」と言ってうなずくようなもんで。
 
(あぁ―、アレか?怖くて逆に何もいえなくなったとか?)
 
 一心に泡で何かの形を作ろうとしている少年を見やれば、「思ったより面白いです。ありがとうございます」といって満足げに微笑んだ。
 
「・・・それでお前、ウチどこよ?」
 唐突になげかけられた質問に新八は泡を玩んでいた手を止めた。
「・・・なんでそんなこと聞くんです?」
「いやぁ、お母さんとか心配してんじゃないかと思って」
 俯いた新八のあごを伝った水滴が一滴、泡の中へと消えた。
「・・・大丈夫ですよ。今んとこ心配する人はいませんから。そして僕は家出じゃないです」
「家出じゃないの?」
 見当が外れたことにがっかりしつつも、別の可能性について思いを巡らせてみる。
 へぇ~と頷いて考えを巡らしていると、新八がうっとうしそうに顔をしかめて銀時をにらんだ。
 
「何でいまさらそんなこと聞くんです?やることやれたら僕の身の上なんて関係ないじゃないですか。
 心配した振りして優しさをアピールしててるんですか?それとも今頃になって怖気づきましたか?」
 
 一気にまくし立てた新八の顔を無表情で見返す。
 幾分上がったらしい新八の呼吸に合わせて泡が大きく揺れた。
「落ち着けよ。つぅか、言ってなかったかもしんないけど、俺ァお前とヤル気はねェから」
「・・・は?ヤラないって・・・」
 今度ははじめてみる表情だった。
 新八は驚きと困惑がセットになったような間の抜けた顔をしている。
 上半身を20cmほど泡から引き上げたためにせっかく積み上げた泡が盛大に吹き飛んだ。しかし、それを気にすることなく、新八はまだ幼さの残る、男にしては大きな瞳で銀時を見つめていた。
 ソレを見て銀時はしれっとして聞いてみた。
「なに?それともヤリたくて仕方ないの?新八君?」
「・・・ッ誰がだ!!」
 あまりな問いかけに逆上した新八は真っ赤になりながら銀時にあらん限りの力で泡をぶっ掛けた。
 
 
 
 
「そんなに怒んなよ。ここは、あぁよかった、このお兄さん優しいのねって、感動して欲しいところよ?」
「呆れこそすれ感動なんてムリです」
 フロから上がってベッドの両端に陣取って座ったものの、新八はずっと軽蔑するようなまなざしで銀時を睨んでいた。 銀時はあいかわらずのやる気の見られない顔でソレを受け流していた。
「・・・で、それなのになんで僕らこんなところに居るんです?というか、お金はくれるんでしょうね?」
「そうがっつくなって。金はやるから安心しろ」
 飄々とした態度の銀時を認めて新八は苦々しくため息を漏らした。
「・・・結局同情ですか」
 悲しそうな表情に乗せられたその言葉は悲痛そのもので、少年の今までの苦労が垣間見える。
 その様子に銀時はやっと核心に触れられる機会を得たと確信した。
「同情ねェ。ネロとパトラッシュ見て以来してねェ気がするなァ」
「同情ですよ。じゃなきゃ高慢です」
 依然として痛烈な言葉しかでてこないこの少年の心をこじ開ける一手は。
 銀時は久々に脳の回転数を上げ、あっちでもないこっちでもないと言葉を捜す。結果、
「いやいや、純然たる興味だな。それに高慢って、そんなモン振りかざすくらいお高くとまったザマかよ、俺が?」
 
 今日の銀時の服装はよれたジーンズにくびれたジャケット。その中は黒くて高そうに見えるかなと思って買ったアウトレット物のニットだ。くたびれてよれたいかにも使い込んでます風な服装からはとてもお金の臭いはしない。 それを指して、どうだ、とばかりに胸を張る銀時に新八は苦笑をもらした。
「そうですね。高慢はないですね。・・・となると、何で僕を買う気になったんですかね」
「だぁかぁらー、興味だよ、興味」
「はぁ」
 言外に、この特に目立たない普通の見てくれの僕に?といわれているのが分かる。
 確かに、いたって普通のグレイのパーカーに黒のジーンズという見てくれでメガネをかけた新八はどこにでもいそうな高校生だ。染めることもなく清潔そうに切りそろえられた黒髪がむしろ珍しいな、という程度だ。
 そんなことは分かってんだよ、こっちだって知りてェよ、という本心は隠して、察しろ、などと勝手なことを思う。
 ・・・と、いい逃げ道を見つけて内心小躍りした。
 
「だってよお前、よく見りゃあちこち汚れてんじゃん。火サス好きな俺としてはほっとけなかったのよ」
 
 うん、我ながら巧い!と、自分に自分で拍手喝采。
 今まで直視できなかった新八の衣服に話題の流れで視線をやるとわずかながらドロに汚れている。
 繁華街にいるだけで違和感バリバリな少年がドロに汚れているとなったらそこにはなんかあると思っちゃうでしょ。まぁ実際家出かなんかと思っていたわけだが。
 すると、気まずそうな顔で気まずそうに口を開いた新八は悪戯を打診するときの子供のように半笑になった。
「・・・僕が汚れてた理由ですか?教えてもいいですけど、後悔しても知りませんよ?」
 銀時は少年の発する不吉な雰囲気を全身で感じながら半笑で、聞かなきゃよかった、と自分を呪った。
 
 
 
 
 新八の話しは自身の出生から始まった。
 
 幼いころに両親は他界し、新八と2歳年上の姉は施設に預けられることになったという。
 しかし、何の因果か二人は別々の施設に預けられたというのだ。これが、5歳のときだった。
 里親を探すのであれば、二人より一人の方が都合がいいとうことなのだろうか。理由は今となっては分からないが、とにかく、おぼろげな両親と姉の記憶しかもっていない新八はその施設で11年のときを過ごした。
 その間には幾度か養子に行けるという話しもあったのだが、新八は断り続けた。
 自分の家族は姉がいるから、と。
 記憶は薄らいで原形をとどめなくなっても、なぜか、新八の心には姉の存在が強く根付いていたのだ。
 そして、施設を切り盛りする老夫婦の手助けをしながら生きてきた。迷惑にならないようにと始めたそれはいつしか板につき、大勢の妹や弟を見送りながら、特に不自由ない生活をしてきた。
 
 そんなある日、施設であり老夫婦の自宅でもある古い一戸建ての玄関に、不穏で厳つい雰囲気の男達が度々現れるようになった。
 老夫婦は借金をしていたのだ。しかも、借りたところが悪く、所謂、ヤミ金というヤツだった。
 それからは展開が早くかった。
 あれよあれよという間に借金は膨れ上がり、返せないといったら施設が抵当にとられることになった。
 そして、その抵当には新八も含まれていたのだ。
 
 
「―・・・は?ちょっと待て。・・・お前が抵当ってなに?意味分かんないんだけど」
「・・・だから、僕も、その、むりやり働きに出されたわけです」
「・・・ヤーサンの仲間入りでもしたの?」
「いや、・・・その・・・・・・所謂、家政婦のような・・・首領専属の・・・」
「ぁ、・・・あぁ~~~、なる、ほど、ねェ・・・所謂、情夫のような・・・」
「そうです・・・ッ。分かったんなら、それ以上、言わないで下さい。・・・ッ、ジロジロ見んな!!」
 いやそりゃぁ、見んだろうが、とは口に出さない。
 情夫って・・・世の中にはいろんな趣味の方がいるのね。・・・まぁ、今となっては分からなくもないが・・・―――
 真っ赤になった新八にこの際だからと、気になったことを素直に聞いてみる。
「・・・そんで、お前はまだ誰にもヤラれてはないわけね?」
 途端、バッと顔を上げた新八は眼が合うとまた気まずそうに視線を逸らした。が、その次にははっきりとした口調で答えた。
「えぇ。・・・咥えさせられそうになりましたけど、噛り付いて逃げてきました」
「え!?どこに!!?」
 思わず顔を顰めてその首領とやらに同情しそうになったが、
「太ももにですっ!!」
 とこれまた赤くなりながら新八は全力で銀時の想像を否定した。
 あぁ、そう、と強張ったからだが弛緩する。
「よく逃げて来れたね。」
 素直に感嘆の意を述べると、「必死でしたからね。ホームレスの方のお家にお邪魔したりしてしのぎましたもん」なんて、いかに知略を巡らしたかを一通り説明してきた。全然知らない学生の集団にまぎれてカラオケボックスに入ったくだりなんかでは、笑顔さえこぼれた。恐怖を感じたものの普段の生活ならば絶対に味わえないスリル満天の体験を誰かに話したかったのかもしれない。
 
 ――・・・しかし、その逃走劇の先にあることを銀時は知っている。
 
 思ったとおり物語りも終盤に近づくと、新八の語りの速度がテンションとともに下がってきた。
 
「・・・それで、郊外に電車で逃れたいとおもったんです。・・・温泉地なんかで下働きなんて、家事全般こなせるし、逃走中の自分にはピッタリだと思ったんです。・・・でも、千葉に行くにも、埼玉に行くにも・・・お金が必要で・・・」
「・・・そんで、手っ取り早く、ケツを使おうと思ったわけね」
 銀時の揶揄に新八は泣きそうな顔をした。
「・・・だって、仕方ないじゃないですか・・・っ。こんな、薄汚れたガキ、雇ってくれるところなんてあるわけないし・・・。・・・・・・一回ぐらいなら、耐えられると思ったんです・・・」
「嘘つくんじゃねーよ。全然平気そうな顔じゃなかったよな?今にも泣き出しそうだったじゃねェか、今みたいに」
「なっ・・・泣いてなんていません!」
「そうかァ?鼻赤かったぞ?」
「アレは、寒かったんです!」
 
 そういうとプイッとそっぽを向いた新八を見て思わず笑みがこぼれた。
 若干、膨らましたほっぺた。どこの幼稚園児だよ。
 声を殺してクツクツ笑っているとそれを見た新八は「何笑ってんですかっ」と怒ったように言って一緒に笑った。
 
「・・・それで、貴方は何やってる方なのか聴いてもいいですか?」と今度は新八が遠慮がちだが、ずっと気になっていたのだろう銀時を見やりながら質問を口にした。明らかに普通のサラリーマンとは異なる雰囲気を漂わせる銀時に新八はいいづらそうに、しかし、聞きたいオーラ全快で問いかけてくる。
 そんな様子に苦笑しながら銀時は一言、「万事屋やってる。」と答えた。
 
「万事屋って、何でも屋さんの事ですか?」
「そう。頼まれれば庭の掃除から浮気調査までやる気があったら何でもするよ」
「いや、やる気の問題じゃないでしょう。それで生計立ててんなら常時頑張らなきゃダメでしょーが」
 至極まっとうなことを言われて諭された。だってしょーがないじゃん、めんどいんだもの。
「・・・貴方の場合、やる気を発揮したことが有るのかすら疑わしいですけど」
 銀時のにごった眼を見据えて新八は酷い事を言ってのけた。
「んだとコラ」
 反抗すると今度はふふふ、と笑って返された。
(まぁ、あたってるけど。いいんだよ、いざって時は煌くから。流石に3日飯にありつけなければ頑張るよ?俺も)
 なんだか悔しいような、でもなんか嫌じゃない気になりながら、あさっての方を向いて新八の忍び笑いをしばらくやり過ごした。
 
 一通り話し終えると新八は銀時から差し出されたコップの水を飲んでフゥ、と今更ながら疲れた顔で溜息をついた。16歳にしてはよく今まで気丈にしていられたもんだと、内心感心する。
「・・・ソンじゃもう寝るか。お前をどうするかは明日考えましょ」
「どうするって・・・警察にでも行くんですか?それは考えましたけど、近隣の交番は恐らく奴らの仲間だと思われるいかにも柄悪そうな人が張ってるんですよ?」
「ん―――・・・それもあるけど、もっといい解決法がある、ような、ないような」
「どっちですか!実は僕、命も危うい状況なんですよ?分かってます?」
 煮え切らない、というか湯気も見えてこない銀時に不安そうに縋る新八をゆるりと押し戻して、銀時は、
「大丈夫だって・・・たぶん」
 と、さっきとあんまり変わらない言葉で、励ました。
 
 それを見た新八はそれ以上迫っても無理そうだと身を引いたようだ。
 早くも銀時の性格を正しく理解しているようで。
 通常の大人の規格からは大きく外れているらしい銀時はある意味、今の現状を打破するのに適しているようにも思えたのだろう・・・不本意だが。
 葛藤を続ける新八の脇で銀時がメンドくさそうに手を振った。
「今悩んでもしょーがねェって。こういうドンづまったときは酒飲んで寝ちまうに限るんだって」
「いや、未成年に酒勧めるってアンタどんだけ規格外なんですか」
「あン?規格外?いまどきの未青年って言ったら酒くらいフツーに飲んでんだろーが」
「いや、僕周りに小学生やら中学生やらばっかりだったんで、たまのお祝い事のときにちょこっと飲むくらいで」
「あぁ、そっか」
「飲みたいんでしたら買ってきましょうか?ロビーに自販機ありましたし」
「あ、お願いしてもい?・・・間違って変なモンまで買ってこないようにね」
「ッ・・・来ませんっ!!子供じゃあるまいしッ、そんな間違いしませんよ!」
 いやそもそも、子供はこんなとこにいないよ新八君、って言おうかと思ったけど、連れ込んだのはどこのどいつですか!とか、間違いなくツッコまれそうだったから止めといた。
 
 
 金を渡してしばらくすると、新八はビール2本と、気を利かせて塩で味付けされたナッツのおつまみを買ってきてくれた。
 ポリポリと、塩からいピーナッツをかじりながら、ホントはチョコとかポッキーとかのほうがいいんだけどなァ、というと露骨に変な顔をして、変わってますね、といった。人の趣味にはあまり強く言及してこないところに好感が持てるとおもった。
 
 
 
 
 
 ・・・だから、あんなことししゃったんだと、後になって思う。
 
 いつもなら、「信じられな~い」とか「気持ちワル~イ」とか、
 否定的な言葉しかかけられたことなかったんだもの、新八君。
 向けられた苦笑いさえ、ウレシイなんて、思えてしまったんだもの、新八君。
 
 嬉しく思った心は膨張して、いつしか見知った欲に変わったんだ・・・―――
 
 
 
 
 
 
 
 ビールを二本消化し、ほろ酔いで気持ちよくなっていた俺はフラフラとベットに横になった。
 横になった先には新八の膝があって、見上げると新八がまた興味深そうに髪を見つめていた。
 
「・・・触ってみてもいいですか?」
 
 その言葉に俺はヒクリと反応する。
 普段ならコンプレックスである白髪を話題にされるだけで機嫌が悪くなるが、そのときはなぜか、いいぜ、好きなだけ撫でろよ、なんて、甘えた台詞でOKした。
 やった、と嬉しそうに笑ってワシャワシャと髪の感覚を楽しみ始めた新八は、それでも時折、リクエストしたように頭を撫でてくれる。その感触が気持ちよくて。
 新八の膝の上に頭を乗り上げる。
 うぅ~んと唸って顔を腿にすり寄せる銀時に一瞬驚いたようだったがまた撫でるのを再開してくれた。
 
 
 しばらくそうやって、撫でて撫でられて、傍から見ればイチャつくカップルにしか見えない構図を繰り広げていた二人だったが、銀時が体勢を変え、仰向けになって新八と視線を合わせたことで今度はなんともいえない空気が流れた・・・――
 
 じっと見詰め合う二人。
 するとおもむろに銀時が口を開いた。
 
「・・・・・・な、新八。・・・いっこお願いしてもいい?」
「・・・なんですか?」
 新八の長いまつげでできる影に魅入りながら一言。
「・・・キス、して?」
 
 この問いかけに、新八は無言のままで上体を倒し、銀時との距離を縮め始めた。
 お互いの息を肌で感じる距離まで来て、一度、新八が止まる。
 それに少しくすぐったいと感じていると、遠慮がちに、新八は銀時の唇に自身のそれを重ねた。
 銀時が新八の右頬にそっと手を添える。新八がそれを上からそっと握った。
 長く、お互いの体温を交換した唇はジンと痺れているような気がする。
 フワフワと、夢見心地なのは、きっとアルコールのせいだけではない。
 
 と、突然銀時がガバッと身体を起こした。
 向きを変えて新八に向きあうと、左手をつかんで強引に引き寄せる。
 力のまま浮き上がり腕の中に納まる華奢な身体。
 銀時はしっかりと抱きとめると新八の頭の後ろに手を添え、先程より深い口付けでもって新八の口を塞いだ。
 
 慣れていないのだろう。新八は苦しそうに眉根を寄せている。
 しかし、銀時を突き放すわけでもなく、震える手で一生懸命ガウンの裾を握っていた。
 大丈夫かと心配になって一旦離してやると、漏れるのは浅く、熱い呼吸。
 その眼は潤み今にも涙が雫となって溢れ出そうであるが、視線は確かに一心に銀時の唇や眼を捉えている。
 ふくふくとした唇は、今や互いの唾液に濡れて、テラテラと妖しい光を弾く。それに銀時は、いまだ呼吸の整わない新八を更に深く味わいたくなった。
 今度は、先程よりも深く、絡み合うような口付けを。
「・・・んんふ・・・っ、はぁ・・・っ、んむ・・・」
 時折もれる甘い吐息を合図に、身体は自然とガウンに手をかけた。――と、そのとき。
 銀時ははたと正気に戻った。
 
 
 
 深く合わさった唇を剥がすと唾液が二人の間で糸を引き、撓んで落ちいった。
 銀時は脱力した新八の身体を抱きとめて支えてやった。
 新八の浅い呼吸はしばらく収まらず、胸に押し付けられた顔は火の様に熱い。
 
 それに若干の罪悪感を覚えながら銀時がおずおずと話しかける。
「ぁあ~~、新八君?言いづらいんだけども、あの、・・・なんてぇか、その、・・・・・・」
「・・・あぁ、はいはい。分かってますよ。さっきからずっと当たってますもん・・・」
 そういうと新八は腕に中でわずかに居心地悪そうにもぞもぞ動き出した。それに焦る銀時。
「ちょ、ちょ、ちょっと、待って新八君!あの、コレは違うよ。コレは昼間見た結野アナを思い出しただけで・・・」
「そうですか・・・っていうか、結野アナに普段どんな妄想してんですか」
「いや、だって、かわいいじゃん?ヤリたいなって思うじゃん?男なら」
「それで・・・・・・僕ともヤリたいと思ったんですか?」
「・・・ッ!!」
 案外簡単に触れられた話の核心に、いまだ決心の付け方が分からない銀時は柄にもなく息を呑むしかなかった。
 みっともなく言い訳を並べて抱くのはなんか違う気がするし、ストレートな物言いなんて人を揶揄するとき以外に使った事がない。
 さぁ、どうする。
 
「・・・・・・僕は、別に、・・・いいですけど・・・・・・」
 最後は聞き取れないような小声であったが、銀時と、・・・銀時の半身は聞き逃さなかった。
「・・・いいの?」
 
 正直な分身を抱えて、いいのもなにもないかと思ったが、だって、自分は、男で・・・お前イヤなんじゃ・・・
 
「いいですよ。なんやかんやで助けてくれましたし、話聞いてくれたし、これからまたご迷惑かけるみたいですし、・・・それに、銀時さんとだったら、・・・その、・・・嫌じゃない、みたい、です」
 途切れ途切れの言葉とともにぎゅうっと背中に回された腕の力が強くなった。
 信じてっていってるみたいだなんて、俺の頭はホント都合がいい。
(信じたい、というか、何でこんなにうれしいんだろう・・・)
 嬉しさで人は死ねる。銀時は今、身をもって体感している。
 そっと抱きこむ腕に力を込めれば華奢な身体を一層熱く感じる。
 この小さくて可愛らしい熱を、銀時はいままで触れてきたものの中で一番いとしいと思っていた。
 
「新八」と耳元に近づいて呼んでやれば恐る恐る上げられた瞳と眼が合う。
「新八。ヤル前に銀さんの話聞いて。・・・俺、お前始めて見た時から、・・その、なんていうか、・・・コイツ綺麗だなぁと思ってた。見てくれとかじゃなく、心とか、魂とか、な?・・・分かるか?」
「・・・分かります。僕も銀さん見たときにそう思いました。だから、・・・ホントはすんごく、怖かったんですけど、思わず着いてきちゃいました」
 真直ぐに銀時を見詰めて、フニャフニャな告白に耳を傾けてくれてる。この存在が今ここに居ることに、なぜだか無償に感謝したくなった。
「そっか・・・そんでな、買う買わないの話になったとき、心の奥の奥まで悲しかったんだ。で、コイツに何があっても俺がどうにかしてやろうって、勝手にそう思ったんだよ」
 長くて、要領を得ない告白。
 結局、理性や道徳など全く関与していない、魂が、お前を求めたんだと。分かってくれただろうか?
「・・・魂」
 新八がつぶやいたのでなんだ?という風に顔をのぞきこむ。
「あ、いや・・・魂を求めたんならどんな苦境に立ってたって、関係ないなって・・・。
 だって僕、銀時さん見たときから触れたくて、堪らなかったんですもん。あ、髪の毛が、とかじゃないですよ
 ・・・銀時さん?」
 肩を震わして笑う銀時を新八は訝しげに見やった。
 銀時は、自分が言いたかった事をすんなりと言われてしまって、なんかもう可笑しかった。
「そうね、魂ならしょうがないよね」
 微笑みながら額と額をあわせると、新八は一瞬驚いた顔をして、
「そうなんですよ。仕方ないですよね」と言って笑った。
 
 
2009/04/17
 

・・・つぅか、長ッ!!この長さで前後編ってどんだけ
読んでくだすったかた、ありがとうございます、そしておつかれさまでした;

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