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「俺とお前の八卦」・前編

先日、資格試験に臨むため母と久々の小旅行をしてきました。

私が試験を受けている間、思ったより活発にアチコチ歩き回って、
十二分に旅を満喫していたようで。ヨカッタヨカッタ。
揃って帰りのバスの中で爆睡。
ホント、その笑顔があれば試験の結果なんて全く気にならない、よ・・・?


「続き」は某所で行われているステキ企画に刺激されて銀新パラレルでお送りします!
あ、ちなみに新八は完全パチ恵化(女体化)しておりますので、
「まじで!?そんなのお呼びじゃないよ!!」な方は十二分に、お気をつけくださいませ。





「お前・・・何してんの?」
「あれ?先生?」
 
 きっかけは些細な遭遇。それが、全ての始まりだった。
 
 
   俺とお前の八卦
 
 
 そいつと偶然会ったのは、仕事帰りに昔馴染みにつれられて入った、一軒の寂れたスナックだった。
 薄暗い店内は大して広くも無いが、一昔前の安臭い内装とくたびれたサラリーマンとがやけにマッチしていてひどく落ち着いてみえた。
 奥のテーブル席に陣取り、安い日本酒を注文して連れとたわいも無い話をしていると、お通しと共に酒が運ばれてきた。テーブルに置かれたグラス、それを運んできた白くて華奢な手。
 何気なく視線を上げた俺は自分の目を疑った。
 
「こんな所で働いてていいと思ってんですかぁ?高校生が」
「こんなトコって、ただのスナックですよ」
 
 その酒を運んできたのは俺が担任を勤めるクラスの、地味メガネこと志村八恵だった。
 いつもの野暮ったい三つ編を解いているとはいえ、普段のコイツからしてみればやはり場違いといえた。
 しかし、それよりも意外だったのは学校では俺やクラスの連中がやることにいちいちツッコミをいれたり、怒ったりといつも騒がしくしてるのに、この場面で慌てるでもなく誤魔化すでもなく至って落ち着いているってことだ。
 微笑すら浮かべつつ慣れた様子で俺のお猪口をいいタイミングで満たしていく。
 訊けば、ここは知り合いが経営する店だそうで。何も心配することは無いと。
 
「お客さんは私がママの知り合いだって知ってますし、タチの悪いお客さんはママが追い出してくれますから、」
 
 だから、何も心配することは無いのだという。
 
 
 
「いらっしゃーい、って、なんだ。アンタかい」
「・・・なんだとは挨拶じゃねェか。違う店で飲むぞババア」
「なんだいアンタはもう!人のあげ足ばっかりとってェェッ!!」
 
 アレから俺は足しげくこの寂れたスナック「宝島」に通っている。
 別にこのムカツクババアが気に入ったとか、パチ恵の事が気になるから、とか、そんな理由ではない。
 安く飲みたい。出来れば安くて旨い酒がいい。
 そんな至って真っ当で、非の打ち所の無い、世知辛い理由のためだった。
 
 いつもの奥の席に腰を落ち着けて、目の前に張り出す造花の乾くことの無い水滴を見つめる。
 コレはパチ恵が飾ったものらしく、ババアのお気に入りだ。
 清廉な白。大輪の青。控えめなグリーン。
 アイツの趣味によって選ばれたソレはやっぱり地味でよく言えば、
 
「・・・控えめ」
 
ほろりと口をついて出た言葉は、思いがけない合いの手を拾った。
 
「思考が口から漏れてますよ。結構飲んだみたいですね先生」
 
 視線をカウンターに向ければしっとり湿った前髪の下の、水滴のついた眼鏡と視線がぶつかる。
 お使いの帰りに急な雨に当たったようで、パチ恵はババアが慌てて差し出したタオルを苦笑交じりに受け取る。
 しかし一旦受け取ったタオルを奪い取られて、髪やら肩やらを勝手に拭き出されてしまって。それにぎこちなく笑みを返す。
 地味で地味でどうしようもない、いつものアイツがそこにいた。
 
 
 送るよ、とは体のいい誘い文句だとは全国共通、甘いラブドリームの幕開けを告げるフラグだと思っていたが、俺とパチ恵の間では当然そんなものは立ちようがなくて。指摘しようものなら鼻で笑われるに違いなかった。
 
「・・・送るよと言っておきながら堂々と人の傘に割り込むって人としてどうなんですかね、先生」
「堅いこと云うなよパチ恵ちゃ~ん」
「ウザい、キモい。セクハラで訴えますよ」
「ヒドッ、てめェ、酔っ払い舐めんじゃねェぞ。もっと普段の倍はデリケートに扱えコラ」
「うわッ、酔っ払いウザッ」
 
 折角日頃の鬱憤を酒で晴らしたっていうのにこのメガネは、デリカシーがない。
 鬱憤ならいつも即席で晴らしてるじゃないですか、なんてツッコミなんか、無視してやる。
 
 そうすることで生まれる静寂。
 おそらく百均のビニ傘はあたりのネオンを反射して胡散臭い輝きを放った。
 ソレを間近で見ながら苦心して傘を持つ。コイツと俺の身長差は結構デカいことに今更気付いたんだが、ソレを考慮して、尚且つセクハラといわれない程度の距離を開けて歩くのは結構大変だった。
 酔っていなければもう少しマシだろうけど、カッコ悪く傘がふらつく。
 そういえば、こうして誰かと傘を差しながら並んで歩くのは何時振りだろうか。
 
 アレでもないコレでもないなと思考していると、ふいに傘を持つ腕を引かれた。
 ソレはもちろんパチ恵で、俺は突然のことに思わず足を止めてしまった。
 
「・・・ナニよ・・・」
「・・・だって先生、肩濡れてるんですもん」
 
 そういって更に拘束を強くされる。
 いや、・・・うん・・・
 
「・・・あぁ、そうね。気付かんかったわ」
「ちゃんと傘に入ってください。風邪引いちゃいますから」
 
 その言葉と共に吐き出された白い吐息を、俺は、捕まえられたらどんなにいいかと、心底思った。
 
 
 
「よぅ・・・来てやったぞー」
「あら、いらっしゃい。今日はやけに遅いじゃないか。来ないのかと思ったよこの子はまったく人の揚げ足ばっかりとってェェ!」
「ウッセーなー俺だっていろいろ忙しーんだよ。・・・あ?アイツは?」
「あれ?トイレかどっかかね?」
「いや~、違うよ母ちゃん~」
 横から投げかけられた酔っ払いのどこまでも暢気なその声に俺とババァは揃って振り向いた。
 
 
 今になって言わせてもらえば、店主がアイツの行き先を知らないって分かった時点で、俺は、なんとなくだが、嫌な予感がしていた。
 だから猿のような顔をしてソイツの行き先を語りだした客を、ドラマでもみるような変な気持ちで眺めていたんだ。
 
 
「なんかね、酷く酔ったヤツをね、ちょっとソコまで送ってくるとかで、今しがた出て行ったよ」
 
 へにゃりと指で指された面白みもない汚れた引き戸。
 ババアの顔が青ざめるのを横目に、俺はここで発散するはずだった疲れを蓄積したままの身体に鞭打って、喧騒もにぎわしい通りへと再び飛び出していた。
 その後の俺の行動の俊敏さは末代まで語り継いでもまだたりないんじゃないの、ってくらいパーフェクトだったと思う。
 
「あンの、馬鹿・・・ッ!!」
 
 店主が「あ、ちょっと、」という間に、俺は地味で地味で仕方がないクラスに欠かせないツッコミ目指して走り出した。
 
 
 
「あの、おじさん――お家」
「えぇ?・・・あぁあぁ、お家ね。・・・んとねーもうちょっとこの先ィ~」
「・・・そうですか。お家まででいいのでしっかりして下さいね」
「はぁ~い。やっさしいねェパチ恵ちゃん」
 
 
 酒臭い息を吐きながら、肩を貸さなければ歩けないほど酔っ払ったおじさんに道案内をさせている現状。
(うぅ~ん・・・ホントにこんなんでちゃんと家にたどり着けるのかなぁ?)
 
 カウンターで突っ伏しているこの客が今にも寝てしまいそうなので声をかけた。タクシーを呼ぼうかといえば、すぐ近くだから要らないといわれた。
 その客はだいじょぶだいじょぶといいながら席を立ったと思ったら、トイレへと続くドアから帰ろうとしたのでこれは駄目だと思った。買出しへ言ったママももうすぐ帰るだろうからと、なじみの客へ言伝を頼んで送ることにしたのだった――
 
 しかし、近いから、といわれた客の家へは一向に着かない。
 酒臭い息を間近に感じながらそろそろ帰らないとママが心配するのではと密かに焦り始めたそのときだった。
 
「パチ恵ちゃん、あそこだよ、僕んち~」
 
 どうしようか、いったん引き返そうかと思案していたため一瞬の間。
「・・・あ、はい」
 一拍遅れて振り仰いだ『僕んち』は、そのパチ恵の表情を一瞬にして強張らせるのに十分な威力を持っていた。
「・・・ここ、ですか」
 
 八恵も決して裕福な方ではないから、借りているアパートは住めば都程度の1K.だ。その外観はつつましく、いってしまえばお世辞にも綺麗とは言えない見た目をしていた。
 が、しかしだ。見上げた建物はそんなパチ恵であっても絶句するような、築何年!?とツッコミたくなるような、そんな佇まいをしていた。
 
「こっちこっち~」
「あ、はぁ・・・」
 
 客に導かれるままに細い小道をアパートまで進んでいく。
 近くで見れば街頭の射さない暗闇だというのにより一層、建物の老朽化具合が見て取れた。
 木造の建物を覆っていたであろう塗装はもとが何色だったか判別は難しく、錆びた釘があちこちから茶色い頭をのぞかせている。雨にさらされた壁は白く変色し流木の様だし、黒く腐っているところも見受けられた。
 
 
 
 それらに気を取られていた八恵は気づかなかった。その暗闇に潜む人影に。
 
 と、突然の衝撃。
 
 
 背後から、突如として重いものがぶつかってきたのだ。
 ほこりの積もった室内に八恵は強か、身体を打ちつけた。
 
「ッぅ、・・・痛ったぁ・・・」
 
 
 呻きに近い声を洩らすと部屋の奥のほうへと体が引きずられる感覚。
(な、なに・・・っ!?)
 
 暗闇に目を凝らすと、連れてきた客のほかに数人の人影が見える。
 一様に自分へと手を伸ばすその影を認識したとたんに、背筋を冷たいものが走っていくのがわかった。
 
 
「ッ、いやぁっ!!」
 
 
 闇雲に手足をばたつかせるが、あっという間にそれも叶わなくなる。
 ぎりりと音がしそうなくらい四肢を拘束されて、仰向けにさせられた眼前を見知らぬ人間の気配が埋める。
 大人しくしろ、やら、早く口塞げ、やらと交わされる声はもう八恵の耳には届かない。
 ―――ただ恐くて。
 
 
「いや!いやっ!いやだぁ!」
 
 声を限りに叫べば、頬を強か張られた。口内に血の味が広がる。
 そのとき、脳裏を銀色の影がかすめた。
 
 
 
(・・・先生・・・)
 
 
 いつだってだらしがなくて、強情で。
 でも近くにいると一等安心できるその姿が、走馬灯のように浮かんでは消える。
 
 
「せんせい・・・」
 
 もたつきながらも、口をガムテープで塞がれる直前だった。
 けたたましい破壊音が室内に響いた。
 
 
「テメェらァァァ!!その汚ぇ手を離しやがれェェェェ!!」
 
 
 吹っ飛ばされたドアの立てる砂埃の中、怒りに顔を歪めた鬼が鉄パイプ片手にたっていた。
 


一本で載せるには勇気のいる長さだったので前後半にいたしました。
展開はどこかの少女漫画のようですね・・・

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