「俺とお前の十八番 2」
前記事のつづきでございます。
2話でおさめるはずがデラ長くなったのでまだ引っ張りますズミバゼン
次で完結篇になるかと思います。
※追記※
オリキャラが登場しているのに注意書きをさらりと忘れておりましたァッ!!;
不快に思われた方がいたら申し訳ないです。
俺とお前の十八番 2
『俺はお前の何になれる?』
手放すつもりは毛頭ないんです。
ただ、ひたすらな思いは時に暴走しがちですが。
2話でおさめるはずがデラ長くなったのでまだ引っ張りますズミバゼン
次で完結篇になるかと思います。
※追記※
オリキャラが登場しているのに注意書きをさらりと忘れておりましたァッ!!;
不快に思われた方がいたら申し訳ないです。
俺とお前の十八番 2
「じゃぁなにか、東京から来てるってことと、俺たちの目的地を知ったとたんに襲い掛かってきたってことか?」
「襲い掛かるって、腕をつかまれただけです。----って、なんですその顔は!…とにかく、血相の変わりようには驚きましたよ」
近くの茶屋に避難し聞いたところでは、地元民ではないと認識し、2、3会話を交わした上で持ち物を狙ってきたようだった。志村がアクシデント体質だということを差し引いても、観光客の目がある中で白昼堂々犯行に及ぶ強盗なんてありえないだろう。これは…
「いやぁ~お二人さん災難だったね」
銀時が嫌な予感がする推測を立てているところで、先ほど茶を運んできた老人が声をかけてきた。
「さっきバス停で一悶着起こしてた人たちだろ?」
「いや、起こしたくて起こしてるわけじゃないいんだけどね?」
「あいつはここいらじゃ有名な悪たれでね。老舗旅館の跡取りなんだが、まぁ金遣いは荒いわ、暴力沙汰起こすわで店の者も手を焼いてるみたいでさ」
「そうなんですか。そう若い方でもなかったようですが」
その一言はなぜか銀時の胸にグサッときた。
「そうさねぇ、いい加減落ち着いてほしいとこなんだが、なんたって後妻さんとうまくいってないみたいでねぇ」
それからは延々と、聞いてもいない旅館にまつわるあれこれを教えてくれた。要は若くして亡くなった母親の影を引きずって後妻に反抗しまくった小僧が、いまだにその空しい駄々をこね続けているってことらしかった。
今回引き受けた依頼は相続にまつわる大事な書類を確実に本人に届けること、だ。
働きづめで体を壊し療養所で床に臥せっているという依頼主の名前は銀時の予想通り、大変遺憾なことだが、その悪たれの母親だった。
警察に届けてはどうかという店員をかわして、俺たちは目的のバスに乗った。
二人掛けの座席の窓側に座らせた志村は、時折ちらちらと俺の様子をうかがっている。その手には律儀にも先ほど俺が目いっぱいへこませたペットボトルが握られていた。
「…バアさんはこうなることを見越してたんだろうよ」
頬杖をついて前を見つめながら話しかけると、志村はびくりと体をゆらした。しかし、話の内容にすぐに食いついてきた。
「…バアさんって理事長のとこですか?」
さすが、ツッコミだけあって頭の回転が速いこと。
「そ。あのお節介ババアは書類と一緒にバカ息子も届けてくれないかなぁ~とか都合のいいことを考えてんだ。どっからか俺たちが相続関係の書類を届けることをリークした上でな」
「そうしてお母様と息子さんの仲直りを促す、と?…え、じゃあ息子さん捕まえて来なきゃいけないじゃないですか!ちょっと、何悠長に構えてるんですか!?」
身を乗り出して詰め寄る志村に視線だけ送って一言。
「「めんどい」」
そうすると驚いたことに、俺のと同時に志村の唇も動いて、二人の言葉は綺麗にぴったり重なった。
それに気をよくした俺は調子に乗る。
「はっは。さすが、よく分かってるじゃねェか」
がははは、と笑うにつれ、当然、志村の眉間には皺がよる。
「笑い事じゃないです!」
志村の怒りが爆発したところでバスが客を乗せるために停車した。気が付けばいつの間にか自分たちのほかにもぼちぼち乗客が増えているようで。ぱらぱらと離れて座る乗客を見渡す。そして銀時は、見渡すにつれ自分の頭がさぁっと冷えていくのを感じていた。
「…志村、次で降りるぞ」
「え?」
いまだに怒り心頭の志村は握ったこぶしの行き場に困ったように固まった。
「でも目的地はまだ先…------」
「いんや、それじゃ駄目みてェだ」
再び何か問いた気な志村も俺の張りつめた気配を感じて口をつぐむ。
バスは車道から盛大に張り出した木々が作り出した木陰の中をするすると進んでいく。比較的緩やかな斜面を慣れた様子で順調に辿り、次のバス停の存在をアナウンスが告げる。そこは観光客向けの林道の入り口があるらしかった。
(好都合…ッ!)
「…志村、キョロキョロすんな。普通にな…」
降車を促しながら耳元でささやくと、硬い表情ながらもコクリと強く頷いた。
俺たちが席を立ち、料金を払っていると、まるで降りる気配のなかった乗客達が一斉に席を立った。
一足先にバスのステップを降りた志村が俺を振り返る。俺はその腕を掴んで叫んだ。
「走れッ!!」
背後では俺の声に反応した男達が料金を払うのもそっちのけで俺たちに追い縋ろうとして、運転手に止められていた。
その騒ぎを聞きながら迷わず林道に入る。昼間だというのにひんやりとして薄暗い空間は、こんな状況でなければ大層気持ちがいいのだろう。しかし今は遠慮なく落ち葉を巻き上げて走り、できるだけ奴らから距離をとることに専念する。しばらく林道を上ったところで歩を緩めると、後ろで志村が激しくせき込んだ。その体を引き寄せて脇の茂みに体を隠す。
しばらくすると、こちらも遠慮なく木立ちを掻き分けながら林道を駆け上がってくる気配が近づいてきた。
それは銀時の見立て通り、バカ息子と同年代ほどの青年で、数は5人は下らなそうだった。
「待ちやがれコラ------!」
「逃げ切れると思ってんのかァッ!」
その集団は銀時たちのすぐそばを罵声を喚き散らしながら通り過ぎていった。
銀時はカタカタ震える体を抱きしめながら自分の心臓を手懐けようと躍起になった。自分の部屋の空気を思い出しながら深く呼吸する。柔らかい布団に、冷蔵庫のプリン。うず高く積まれた愛読書たち。俺が落ち着き始めると志村の呼吸も次第に治まっていくようだった。ただ、俺のジャケットを握る手だけが力を入れすぎたために白く変色してしまっていて、それが痛々しかった。
最後に力強く息を吐くと志村の顔が上がったのがわかった。離れようかこのままでいようか悩んでいるようだったので一度肩を抱きなおす。
「焦ることなさそうだな。あいつら鼻の利かねぇ犬みたいだ」
先ほどから闇雲にうろうろしている人影が見て取れる。実際、あちらもここの地理がわかっているようではなかった。
しかし、こちらものんびりはしていられない。
*
山の中腹にひっそりと建てられた施設は、早い夕暮れを迎えていた。
英国風の庭園が周囲をぐるりと取り囲んでいるそこはこぢんまりとしているが居心地の良さが見て取れる。洋風の、木のぬくもりを感じる建物の中からは時折笑い声が聞こえる。温かい夕食を囲んでもうすぐ終わりを告げる今日という日を穏やかに見送っているようだった。
その温かさが闇に吸い込まれる境界線。夕暮れに沈みゆく駐車場に、一つの人影があった。
その人物はカーテンの向こうで揺れるシルエットを静かに見据え、表情はどこか寂しそうだった。
「ご依頼の品、お持ちしました」
背後から突然に声をかけられても、その人物はぬくもりから視線をそらすことはなかった。
ただ静かに微笑を浮かべると、その表情のまま、初めて背後の人物と対峙した。
「どうも。といっても、あんたに頼んだ覚えはないけど」
青年は昼間にバス停で見かけたときより大分大人びて見えた。
自分より身長のある銀時に臆することはない。その視線は泥だらけになっている銀時とその後ろの八重を静かに観察している。
「あんたら、何者だい?俺の仲間の中じゃ、腕の立つ奴らを集めたつもりだけどね」
「ああーそうなの?ま、安心しな。昏倒させただけでそんなダメージは残してないつもりだし、林道に蹴りだしてちゃんと降りる方向矢印で書いといたし」
「そうか…」
そうつぶやくと視線は再び施設のほうへと戻ってしまう。
「お母様に、会わなくていいんですか?」
八重の問いかけにその背が揺れる。
辺りは遂に夕日も届かない山独特の真の闇へと移り変わった。
生理的に沸き上がる恐怖。その先に何があるかわからない混乱と、進めるべき足を止めてしまう自分に対する苛立ち。
「今お話ししておかないと、きっと、一生後悔します」
暗闇を抜ける勇気。その先にあるかもしれない希望へと伸ばす両手は確かにあるのに…
「気が付いた時には、人は、取り返しのつかないほど離れてしまいます」
そう、気が付いた時には余りにも…
「君には、分かるんだ…」
熱くて、寂しくて。鏡で見た自分にそっくりな瞳をした少女が頷く。傍らに立った銀髪はその子の頭を乱暴に引き寄せると袖口でやさしく涙を拭った。
決して、ないがしろにしたかった訳じゃない。それがきっと暖かいことも、尊いものだということも、自分が何より望んでいるものだということも分かっていた。
「お願いします。あなたを、あなたの未来を一番案じている人が、すぐそこにいるんです」
精一杯、駄々をこねた。不満を漏らして、耳を塞いだ。いまさら、自分の愚かさに笑えてくる。
「…若旦那ァ------!…」
遠くから仲間の呼ぶ声が聞こえる。家業に背を向けたくせに、仲間に呼ばせたあだ名がチクリとまた胸を刺す。いつかこの呼び方を誇らしく思う時が来るのだろうか。
長い間、正面から向き合うことを拒み続けたあの人の、遺言に記された本当の心に向き合うのが怖かったなどと、もう言ってはいられないのだ。自分を誇らしく思えるように、俺は一歩を踏み出さねばならない。
「早くしろよ。行かねェなら気絶したまま依頼人の前に突き出すぞ」
「ちょっと、先生ッ」
「分かってんよ。あいつら来るまでちょっと待てって…」
ハイハイ、といい加減な返事を返した先生と呼ばれた人物は、すでに少女に向き直っていた。
あっちを擦りむいただ、さっき捻った足はどうした無理すんじゃねェバカヤローと、構いすぎて若干ウザがられているようだ。
これは、俺の最初の仕事が決まったようだ。
*
ちょっと待て、といったものの旅館の跡取り息子は老人ホームへ足を踏み出すまでにそれから20分はかかり、銀時を殊更イラつかせることとなった。しかし、会ってしまえばあっけないもので、親子は手に手を取り合って対面できたことをひとしきり喜び合っていた。ごめんを繰りかえす息子に母は、「もういいのよ。あなたはえらい子よ」と言い続けていた。
やんちゃをすると有名な息子も、手下から話を聞けば、ただいちゃもんつけてきた奴らをボコボコにしたに過ぎず、使い込んだと思われた金も厄介ごとを起こした弟分の埋め合わせのために使われていたらしかった。そうしている内に界隈のヤンチャ連中の総元締めとなっているとなれば、まぁその人材生かして商売もうまくやっていけるんじゃないのと、ひとまず一件落着の日の目を見たのだった。
「そこで“ちゃんちゃん♪”って終われよなァ~。ホンットKYすぎだわ。銀さんMK5だわ。あぁぁ~もう帰りてェ。帰ってビール飲みたい」
「ビールですか?それなら夕飯の席にお持ちしますね」
「イヤイヤイヤイヤ、結構です。ホント結構ですから、口が滑っただけでマジすんまっせん」
「そんなぁ、遠慮なさらずぅ。それでは、失礼しま~す」
「ちょっとぉぉおお!?」
文句の付けどころのない、完璧な営業スマイルが襖の向こうに消えた。引き留めるために延ばされた腕をだらりと下して、銀時は深い溜息を吐いた。
今回の騒動のお詫びとして、二人は息子の実家である温泉旅館へと招待され、銀時はすでにひとっぷろ浴びたところだった。問答無用で脱いだ衣服はクリーニングに出され、部屋が用意され、今度はビール付の夕飯までいただけるらしい。はっきり言っていい迷惑だ。腰かけた桟から眼下の暗く沈む森を見据え再び盛大なため息を吐いた。
先ほど事の顛末を報告がてら理事長へも伺いを立てた。お礼とはいえ教師と生徒が二人っきりで旅館に泊まるのはいけないですよね?あなたからも言ってやってください。という至極全うな内容だったはずだ。それなのに、俺の必死さも伝わっただろうに、あのババアは。
「ああ、ご苦労さん。報酬は弾んでおくよ。志村にもよろしく言っておいておくれ」
「…え?それだけ?教師として、理事として、つぅか、人間としていうことがあるだろうがぁッ!!」
「宿泊することをいってんのかい?それなら1泊くらい構やしないよ。それとも何かい?なにか問題起こす気でもあるのかいアンタ」
「あ、あああある訳ねェだろ!な、何言ってんだババア!」
「それじゃあビクビクする必要はないじゃないのさ。…あぁ、そうだ銀時」
「……んだよ」
「もしも問題起こしたら、二度とうちの学校の敷居は跨がせないからね。それじゃ、しっかり休みな」
ツー ツー ツー
「……」
1時間前のやり取りを思い出して銀時は身震いした。
これでは信用されているんだか、されてないんだか。されたいのか、されたくないのか、というか何を信じたいのか分からなくなってくる。
「先生?入りますよ」
と、突然襖の向こうから声がかかった。
驚いてビクリと身じろぎするとか、自分でも笑えねェ。
「お、おう」
おずおずと入ってきた志村は、湯上りなのだから当然、ほほが赤くて、髪も若干湿っているようだ。
「…広いお風呂でしたね」
「そうね」
ゴムでゆるく結わえてある髪の流れがやけに気になるが、見てはいけない気がした。なんとなく目を合わせづらくて、夜景に集中してしまう。さすが、山の中だけあって星は綺麗だった。
「息子さん、お家に戻れてよかったですね」
近づいてきた気配が、意を決したように話しかけてきた。気を使ってしまうコイツのことだから、苦し紛れにでも会話を続けたいのだろう。そう思って振り返った俺は、久々の後悔をすることになる。
熱くって、苦しくて、荒れ狂う気持ちを、必死に平らかに見せている目をしていた。それはひどく昔の俺に似ていた。俺の場合はこいつのように穏やかではなかったかもしれない。とにかくこれほどまでに人の心を根底からざわめかせることがなかったのは確かだ。
「…えれェ時間かかってたけどな」
「先生、お尻に蹴りかかりそうな顔してましたもんね」
「たりめェだろ~。こちとら一日中走り回ったわ、泥だらけだわで散々だったつぅんだよ」
「ふふふ…まぁ、分からなくは、ない、ですね」
視線を落とした志村の横顔をみやる。
(どうして。どうしてこいつには親がいないんだろう…)
俺はいつだってそれを歯がゆく感じてきた。
(どうしてコイツをしっかりと支えて、護ってやる存在を早々に取り上げてしまったんだろう)
おかげでコイツの危なっかしいことといったらないというのに。
「先生?」
そろりと伸ばした腕の先。残念なことに志村の腕に触れるか触れないかの距離を残した。
その手の行先を志村も静かに見つめている。
しかしそこで俺という人間が手を伸ばしていいものだったろうか、また、分からなくなる。
最初は仕方がないから護ってやろうと思った。なんたって、無駄に正義感ばかり強くって、善意の塊みたいなコイツは世知辛い世の中を生きるのにはあまりに危険すぎると常々思っていたから。
男と女。大人と子供。その差がどれほど主張を貫くためのハンデになるのか、こいつはまだ全然分かっていないのだ。
今日だって、一人ひとり奇襲をかけてつぶしていくと言ったら自分も手伝うと当然の事のようにいってきた。囮でも何でもいい、やらせてほしいと。
コイツにしてみれば窮地に立っている人を助けるために自分を危険に置くことは苦ではない、むしろ自然なのだ。モットーでも綺麗事でもない。性格といえばそれまで。でもそれだけでは言い切れない、もっと人格の根底の澄み切った場所というか、人の手の介入し得ないところでコイツは己の運命を決めてしまう。俺は出会ってまだ間もないころにそう感じて飽きれてしまったのを覚えている。
担任にしてみればいい迷惑だ。それなのに3年間奇しくも同じ教室の空気を吸い、律儀にツッコミ続けたコイツ。恐ろしく身勝手なクラスメイトに囲まれながらも、その根は腐ってしまいはしなかった。それどころかますます強く根を張るようだった。救いを必要とする人を前にしてしまえば、これからだんだんに身につくだろう処世術を待つことを選ばずに、荒々しく前をにらみつけて走り出すことしか考えられない。仲間のために走ってゆける。そして護りきって笑顔でこういうんだ。
『ね、先生。よかったですね』
「志村、俺な…------」
記憶の中の最高にいい笑顔をしている八恵に目がくらんだ。
目の前の心配そうに俺を見つめる八恵に俺は心の中で先に謝っておいた。
「俺は、お前が好きだ」
果たして俺のこの好意がコイツの助けになるのだろうか。生きやすくなるのだろうか。
…何を今更。そんなのは分かりきってる。余計な心配をかけるのは分かりきっているんだ。
------分かりきってるんだ。
『俺はお前の何になれる?』
手放すつもりは毛頭ないんです。
ただ、ひたすらな思いは時に暴走しがちですが。
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